未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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職業欄は冒険家!?

山形の大自然が生んだ冒険家・大場満郎さんの「死ぬまで輝いた目で生きる」という人生の挑戦

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.129 |10 January 2019
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#10北極冒険家・荻田泰永さんとの出会い

南極大陸単独横断行(左)、北極男(右)

両極横断という大冒険を終えた大場さんには、もうひとつやりたいことがあった。それは若い人たちを連れて北極を歩くこと。
「現代では、人生でなにをしたらいいかわからないっていう若い人がいっぱいいるって聞いてさ。ひきこともりとか。そんなの北極にいったら一発で解消できるよ!って思って。寒いから自分で体動かさないと死んじゃうから!」

「北磁極を目指す冒険ウオーク2000」と名付けられたその旅の拠点は、再びレゾリュート。一ヶ月をかけて700キロの道のりを北磁極(注:地球の地磁気が集まる北の極点、北極点とは1000キロほど離れている)に向かって歩く。装備や食料の多くをソリに積んで歩くガチンコの冒険ツアーだ。

とはいえ、参加にはアウトドア経験の有無は問われず、希望すれば誰でも参加できた。そのため、周囲からは、素人を連れていって大丈夫なのか、と心配の声も上がった。そんなときは、「大丈夫ですよー、若いからきっと教えれば歩けますよ」と楽観的に答えたそうだ。大場さんは、体力や経験は違っても、みんなで協力しあえればきっと大丈夫だと考えていた。

募集を始めてしばらくすると、一人の若者から手紙が届いた。
そこには、参加したいというと熱意溢れる言葉が並んでいた。
送り主は、のちに冒険家になる荻田泰永さん。今年、単独無補給で南極大陸を横断した人と聞けばピンとくるかもしれない。

当時、荻田さんは、たまたま見たテレビ番組で大場さんの存在を知ったそうだ。彼はその日のことを、「自分の人生を変えた運命の日」と書いている(『北極男』)。
自伝によれば、荻田さんは当時大学生活に手応えを感じることができず、大学を中退したばかり。大場さんの狙い通り、人生で何をしたら良いのかわからないという若者だった。手紙を読んだ大場さんは、すぐに返信を送った。

————北極行きのメンバーはすでに何人か集まって、月に一度ミーティングをしています。今度そこに参加してみてはどうですか?————

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未知の細道 No.129

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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