飯給駅に戻ってきた。ここが今日のファイナルディスティネーションだ。時計を見ると、針はもう4時を指している。雨の中、4時間も里山を歩き回ったことになる。次の列車が来るまで、あと40分くらいだ。それまで無人の駅舎で待つことにした。
すると私たちに声をかけてきた男性がいた。グループの中の一人と知り合いだという、松本さんだ。松本さんは地元の人たちとともに、飯給駅の前で「ギャラリーいたぶ」というスペースを週末に運営しており、そこは飯給駅を乗降する観光客が一息つける場所になっているという。
「この雨の中、歩いてきたの? すごいねえ」と驚いた松本さんは、列車を待っている私たちのために、駅舎まで暖かいコーヒーがたくさん入ったポットを持ってきてくれた。ふだんはギャラリーに立ち寄る人たちにもコーヒーをふるまっているという松本さん。雨の中を歩いてきた体に、思いがけないコーヒーのおいしさが沁みわたった。
やがて赤い列車がホームに入ってきた。みんなで松本さんにお礼を言って、列車に滑り込む。列車の窓から手を振ると、松本さんは手を振り返して見送ってくれた。
帰りの列車に揺られながら、みんなが川底で拾ってきた石英などの石を見せてもらった。白や緑などのきれいな石の粒を見ていると、養老渓谷の河床や地層、柔らかい地質から生まれた独特な地形の数々が思い出された。大昔、海の底だった地層「千葉セクション」。あの場所が、ここが「千葉時代のGSSPだよ」と言われる日も、近いかもしれない!
松本美枝子