未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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77万年前の地磁気逆転地層を目指して!

養老川と地層を巡る

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.117 |10 JULY 2018
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#6ここが逆転地層だ!

柔らかい地質で起きる希少な現象、「ポットホール」がある川

 いよいよ、地磁気逆転地層がある養老川の入り口に着いた。忍澤さんが指をさすところには細い川が流れ込み、川底にいくつもの丸い穴が空いている。房総半島の地質は軟質であるため、この珍しい「ポットホール」と呼ばれる穴ができるのだという。「そして房総半島の地盤が軟らかいことが、千葉セクションの地層や、養老川周辺のさまざまな地形の特徴に通じているんですよ」と忍澤さんはいう。それはいったい、どういうことなのだろうか?

 養老川に降りてみると、「千葉セクション」の露頭が広がっている。地層をよく見ると、白い筋が斜めに入っているのがわかる。これは77万年前に、今の長野県と岐阜県あたりにあった古期御嶽山が噴火した時の火山灰の堆積層であることが分かっており、厚さ3センチほどのこの層は「白尾火山灰層」と呼ばれている。これが、まさに77万年前の目印だ。

筋が入ったように見える白尾火山灰層

 そして、この「白尾火山灰層」こそが、77万年前の地磁気の逆転がわかる境目なのだ。地層の表面には、研究チームが打ち込んだ3色の杭が打たれている。白尾層の下にある赤い杭の地層は、現在と地磁気が逆転していた時代の地層、その真上にある黄色い杭の地層は地磁気が不安定な時代の地層(そんな時代もあったのだというから驚きだ!)、そしてさらにその上の緑の杭が、現在と同じ地磁気の地層、というわけだ。
 このように地磁気の変化が連続して見られる場所は、先述したようにこの田淵地区の他にはイタリアの2ヶ所しかなく、中でもここが最も観察しやすく、環境や時代を決めるための資料が揃っている場所なのだ。
 もともとは深海に堆積していたこの更新世の地層。だが房総半島が隆起し、さらにその地盤が養老川に侵食されたことによって、このような崖になって私たちの目の前に現れた、というわけだ。そして更新世の地層がこのように陸上で見られることは、地球上でもこの房総半島ぐらいなのだという。

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未知の細道 No.117

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。