さてここで、鈴木さんと地磁気逆転地層とはお別れである。これから周辺の地層などを見学しながら、帰りの電車に乗る飯給駅まで歩くのだ。飯給駅までの道のりにも、房総の軟らかい地質特有の地形がたくさんあるのだという!
月崎駅の近く、道の傍らにぽっかりと薄暗い穴が空いている。先まで見通せるので、短いトンネルのようだ。
これは房総半島に数多く点在する、古い素掘りトンネルのひとつで、明治時代に作られた「永昌寺トンネル」だ。昔の人は道や線路を通すために、山を切り開いて人力でトンネルを掘った。この辺りの地盤が軟らかいからこそ、できたことである。この永昌寺トンネルも、今なおこの地に住む人たちの生活に欠かせない道路になっている。この月崎駅周辺など、市原市にはたくさんの素掘りトンネルがあるという。
そして素掘りのトンネルのもう一つの魅力は、トンネルの内部の壁面が、全て地層として見られることだ。古いトンネルであるため壁面にモルタルなどを吹き付けておらず、岩盤が自然のままになっているからだ。
薄暗い永昌寺トンネルを進んでいく。トンネルの内部はまるで将棋の駒のような形をしており、これは観音堀と呼ばれる伝統的な掘り方だ。
ところどころに化石があり、みんなで探しながら歩く。「漣痕(れんこん)化石がありますよ」と大里さんが教えてくれた。漣痕化石とは、漣(さざなみ)つまり、海の波の化石のことなのだ!
楽しい化石探しもあっという間に、反対側の出口へと出た。観光客の中には、この素掘りトンネル巡りをする人も多いのだとか。私たちもこの後、さらに二つの素掘りトンネルをくぐりながら、飯給駅を目指して歩いていった。
松本美枝子