さて永勝寺トンネルを過ぎてしばらくすると、森の入り口に不思議な看板がかかっていた。「浦白川のドンドン」と書かれている。これはいったいなんだろう?
私たちは看板の奥にある森へと進んでみることにした。森の小道をしばらく進んで、さらに急な坂になっている藪を下ると、急に目の前が開けた。そこにはなんと巨大な、観音堀りの素掘りトンネルの下を流れる川が現れたのだった!
これが「浦白川のドンドン」なのだろうか……? 「これはおそらく昔の『川廻し』の跡ですね」と、グループの一人、河川の専門家が教えてくれた。
「川廻し」とは、江戸時代以降にさかんに行われた房総半島特有の河川工事のことだ。養老川のように、軟質な地盤を削りながら蛇行して進む房総半島の河川。その曲がった川筋をトンネルなどに通してまっすぐにし、元の川筋は水田などに活用したのが、川廻しだ。
「ここは私も初めて見ました」という、市原市の忍澤さん。昔の川廻しの素掘りトンネルが、時間を経て流れに削り取られ、大きくなっていったのだろう。そしていつしか、地元の人にも忘れ去られてしまったのかもしれない。
それにしても「ドンドン」とは、どういう意味なのだろう?
「きっと、川が増水した時の水の音とか、危険を知らせるような意味だったのかもしれないですね」と、河川や地質の専門家たちは考えながら話しあっていた。
さて、ここで仕事に戻る忍澤さんとお別れだ。私たちは元の道に戻って「浦白川のドンドン」の真上辺りを歩いた。この下に森とトンネルと川があるなんて、ちょっと気づかないなあ……と思いながら。
松本美枝子