養老川の河床に降りてみる。浅い河床にきれいな水がゆっくりと流れている。「ここは自分たち地元の人にとっても、昔からの遊び場なんですよ」と鈴木さん。川底が平らなので、長靴さえあれば川の中も歩きやすい。日本の川の多くが一般的にV字型の川底になるのに対して、養老川がU字型の川底であるのも、房総半島の地質の柔らかさによるものだ。
川の中央から振り返ると、両岸に広がる雨に濡れた緑の森もきれいだ。晴れていたら、なおのこと楽しいだろう。
「貝の化石が見えますよ」と忍澤さんが教えてくれた。確かに河床の表面のあちこちに、貝のような白いものが埋まっていることに気づく。何万年もの昔の貝も、今の貝と同じような形をしていたんだなあ……と、私は感心してしまった。
「こっちには生痕化石もありますよ」と、地質の専門家のひとり、坂元さんも教えてくれた。眼を凝らすと、河床に何か筋のような模様が見える。海の底に生きていた動物が這った跡だ! ここでは素人の私でも、そんな化石をすぐに何個も見つけることができる。
私が化石を探して川を歩き回るのに熱中していると、ふるいを片手に他のみんなが集まって、何かを熱心にのぞいてる。みんなは川底の砂をさらって、鉱物を探していたのだ。「ここではそろばん玉のような形の高温石英なども採れますよ」ともう一人の地質の専門家、大里さんが教えてくれた。養老川には地磁気逆転地層、化石、鉱物と、地質学のさまざまな楽しみがあるわけだ。
松本美枝子