未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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77万年前の地磁気逆転地層を目指して!

養老川と地層を巡る

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.117 |10 JULY 2018
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#7川底の宝物

 養老川の河床に降りてみる。浅い河床にきれいな水がゆっくりと流れている。「ここは自分たち地元の人にとっても、昔からの遊び場なんですよ」と鈴木さん。川底が平らなので、長靴さえあれば川の中も歩きやすい。日本の川の多くが一般的にV字型の川底になるのに対して、養老川がU字型の川底であるのも、房総半島の地質の柔らかさによるものだ。
 川の中央から振り返ると、両岸に広がる雨に濡れた緑の森もきれいだ。晴れていたら、なおのこと楽しいだろう。

「貝の化石が見えますよ」と忍澤さんが教えてくれた。確かに河床の表面のあちこちに、貝のような白いものが埋まっていることに気づく。何万年もの昔の貝も、今の貝と同じような形をしていたんだなあ……と、私は感心してしまった。
 「こっちには生痕化石もありますよ」と、地質の専門家のひとり、坂元さんも教えてくれた。眼を凝らすと、河床に何か筋のような模様が見える。海の底に生きていた動物が這った跡だ! ここでは素人の私でも、そんな化石をすぐに何個も見つけることができる。

 私が化石を探して川を歩き回るのに熱中していると、ふるいを片手に他のみんなが集まって、何かを熱心にのぞいてる。みんなは川底の砂をさらって、鉱物を探していたのだ。「ここではそろばん玉のような形の高温石英なども採れますよ」ともう一人の地質の専門家、大里さんが教えてくれた。養老川には地磁気逆転地層、化石、鉱物と、地質学のさまざまな楽しみがあるわけだ。

地磁気逆転地層の裏側にあたる、川がある地域に多い「段丘」と呼ばれる地形を歩く。左手はずっと地層が続いている。
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未知の細道 No.117

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。