いよいよ「千葉セクション」と呼ばれる地層に向かってのハイキング。すると曇り空からポツポツと雨が降り出してきたので、レインウェアと傘で重装備してから、月崎駅を出発した。
「ここの地層については、20年ほど前から地元の人たちも、知っていたんですよ」と鈴木さんが歩きながら話してくれた。実は鈴木さんは田淵地区出身だ。ここが重要な地層であることは、日本の研究者たちには知られていて、90年代には、論文も出ていた。田淵地区にはしょっちゅう研究者がやってくるので、地元の人もなんとなく知っていたのだという。
では「千葉セクション」は、なぜ、それほどまでに重要な地層なのか?
それは地球の「地磁気」と深い関係がある。地球は大きな磁石のようなもので、北極がS極で南極がN 極であることは、誰もが知っている通りだ。これを「地磁気」という。
しかし地球が誕生してから、いつもこうだったわけではない。長い歴史の中で、何度も地磁気の逆転現象、つまり、北極がN極で南極がS極になった時代があったことが分かっている。360万年前からだけでも、11回も地磁気の逆転現象があり、最後の逆転は77万年前、つまり千葉セクションの時代なのだ。この最後の地磁気逆転は、先述の更新世の前期と中期の境目で起こった。
そして千葉セクションに含まれる鉱物を調べてみると、この最後の地磁気の逆転現象がはっきりとわかる、世界でも数少ない地層だということが分かったのだ。それがさらに5、6年前から海外の研究者にも知られるようになり、だんだんと世界が注目するようになっていったのだ。
昨年末には千葉セクションがGSSPのひとつめの審査が通ったことで、さらに観光客も多く訪れるようになってきた市原市。市ではこの地層を国の「天然記念物」として指定するための取り組みを始めている。同時に地層がある養老川周辺の見学環境を整備し、さらに学校の授業にも地層のことを採り入れるなど、市内外の人たちが地層を楽しんで学べる環境作りを進めたい、と忍澤さん。
「小湊鉄道の人気や、市が主催となって開催した国際芸術祭『いちはらアートミックス』、それから地磁気逆転地層と、ここ数年で急に市原の里山の魅力がつながって、盛り上がってきているんですよ」と鈴木さんは嬉しそうに話してくれた。
松本美枝子