未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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77万年前の地磁気逆転地層を目指して!

養老川と地層を巡る

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.117 |10 JULY 2018
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#5地層を目指して

 いよいよ「千葉セクション」と呼ばれる地層に向かってのハイキング。すると曇り空からポツポツと雨が降り出してきたので、レインウェアと傘で重装備してから、月崎駅を出発した。

「ここの地層については、20年ほど前から地元の人たちも、知っていたんですよ」と鈴木さんが歩きながら話してくれた。実は鈴木さんは田淵地区出身だ。ここが重要な地層であることは、日本の研究者たちには知られていて、90年代には、論文も出ていた。田淵地区にはしょっちゅう研究者がやってくるので、地元の人もなんとなく知っていたのだという。

 では「千葉セクション」は、なぜ、それほどまでに重要な地層なのか?
 それは地球の「地磁気」と深い関係がある。地球は大きな磁石のようなもので、北極がS極で南極がN 極であることは、誰もが知っている通りだ。これを「地磁気」という。
 しかし地球が誕生してから、いつもこうだったわけではない。長い歴史の中で、何度も地磁気の逆転現象、つまり、北極がN極で南極がS極になった時代があったことが分かっている。360万年前からだけでも、11回も地磁気の逆転現象があり、最後の逆転は77万年前、つまり千葉セクションの時代なのだ。この最後の地磁気逆転は、先述の更新世の前期と中期の境目で起こった。
 そして千葉セクションに含まれる鉱物を調べてみると、この最後の地磁気の逆転現象がはっきりとわかる、世界でも数少ない地層だということが分かったのだ。それがさらに5、6年前から海外の研究者にも知られるようになり、だんだんと世界が注目するようになっていったのだ。

 昨年末には千葉セクションがGSSPのひとつめの審査が通ったことで、さらに観光客も多く訪れるようになってきた市原市。市ではこの地層を国の「天然記念物」として指定するための取り組みを始めている。同時に地層がある養老川周辺の見学環境を整備し、さらに学校の授業にも地層のことを採り入れるなど、市内外の人たちが地層を楽しんで学べる環境作りを進めたい、と忍澤さん。
 「小湊鉄道の人気や、市が主催となって開催した国際芸術祭『いちはらアートミックス』、それから地磁気逆転地層と、ここ数年で急に市原の里山の魅力がつながって、盛り上がってきているんですよ」と鈴木さんは嬉しそうに話してくれた。

市原市役所の鈴木さん。
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未知の細道 No.117

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。