玄関で迎えてくれたエンジェルさんは、秋田犬保存会の渋いキャップをかぶっていて、その姿を見た瞬間、「この人はマジだ」と直感した。自宅の広い庭には犬舎が立ち並び、成犬5匹に加えて、最近生まれたばかりの7匹の赤ちゃん、計12匹を飼っているという。子犬の1匹が弱っているからほぼ付きっ切りで看病しているというエンジェルさんの話を聞くと、真の秋田犬ラヴァ―だとわかった。
「昔は違う犬飼っていた。でも新しい犬を探すときに、インターネットで初めて秋田犬を見た。18年前、20歳の時。秋田犬はすごく面白かった。2年前、初めて日本に来た時は、秋田犬を見たかったから、成田から大館に来て、大館からイスラエルに帰った。それで大館もすごく好きになった」
来日の目的は、毎年春に開催される秋田犬の展示会の見学と自分で飼う秋田犬を探すため。その時に秋田犬の輸出事業を始めようとしていた地元の起業家と知り合ったことが、大きな転機となった。イスラエルに帰国して間もなく、その起業家から一緒に事業をやらないかと誘いを受けたのだ。その時、「ちょっとだけ考えて」、大館市への移住を決めた。
エンジェルさんはかつて、国際畜犬連盟(FCI)のイスラエルケンネルクラブで犬の血統証明に携わった経験があるそうだが、本業はプログラマーで、フリーランスで仕事を請けながら秋田犬のブリーダーを始めた。無事に子犬が産まれたのでこれから販売を始めるが、ブリーダーはあくまで趣味だという。
「秋田犬は私の電池。一番重要で、お金のためじゃない。だから趣味。稼いだお金はすべて秋田犬のため。秋田犬をもっと元気にしたい。必要なのは本当のブリーダー。(相性の)良い血統で交配すると元気、もし(相性の)悪い血統で交配するとダメ。だから、秋田犬を勉強するのはすごく重要」
大館に移住して秋田犬のブリーダーになったエンジェルさんの存在は海外でも知られており、海外から秋田犬についてのさまざまな質問が届くそうだ。その回答をするために毎日、3、4時間を費やしているという。海外での秋田犬の人気を下支えしているのは、エンジェルさんなのかもしれない。
エンジェルさんが飼っているガッツという秋田犬は、今年開催された第136回本部展の成犬牡の部で2位にあたる「特優」を獲得した。そのガッツと一緒に写真を撮らせてもらった時の誇らしげな表情が印象的だった。
川内イオ