未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
91

将棋ブーム「将棋の街」は今

将棋駒の生まれる街

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.98 |10 September 2017
この記事をはじめから読む

#11また一人、新たな将棋ファン

将棋駒を彫る印刀は1本のみ。角度や力の入れ方で表現していく。

 桜井さんは、将棋駒の将来をどのように見ているのだろう。

「もっと将棋が多くの人に広まったらいいなと思います。駒は結局、その道具ですから。世界戦とか、そういうものができたら面白いですね。囲碁は東アジア大会とかあるんですよ。将棋はまだ国内だけなので、海外の人にももっと知ってほしい」

 漫画や映画の題材として将棋に火がついた今、海外への進出も遠くないような気がしてくる。

「将棋の世界というのは、割と根強いファンがいて。特に今の将棋ブームがなかったとしても、簡単に廃れるようなものではないと思います。今はブームだから、一過性の部分もあると思いますけど、今年、将棋を始めた子どもたちがまた強くなっていって……となったらいいですよね」

 若手職人として天童と将棋駒業界を担っている、という気負いは桜井さんからは感じられない。駒づくりを始めたときと同じように、ただ目の前の駒と向き合っているだけだ。それでも確かに背負っているものが、桜井さんにはある。

「天童で作ってる駒はいいものなんだよっていうのを、やっぱり見せたいですよね」

木と印刀だけで毛筆を表現するのは、まさに職人技だ。

 そう言って将棋駒を眺める桜井さんを見ていると、なぜか安心した。天童のみなさん、新旧将棋ファンのみなさん、天童の将棋駒はまだまだ、これからです。こんなに天童と、将棋のことを考えている人がいるのだから。

 将棋、始めてみようかな。

 そうしたら天童に戻ってきて、市内の詰将棋にもチャレンジしてみたい。桜井さんの将棋駒欲しさにそんなことを考えている私は、もう将棋ファンになっていた。

このエントリーをはてなブックマークに追加


未知の細道 No.98

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。