天童将棋駒資料館は、ひんやりとした空気が流れていた。建物の一階部分に、隅から隅までぎっしりと、将棋駒の展示がされている。将棋駒の歴史から始まり、将棋駒の作り方、天童市と将棋駒の関係性までが網羅されている。
将棋駒は日本のものという感じがするが、遡ると起源はインドにあるそうだ。紀元前300年頃、古代インドにあったボードゲーム「チャトランガ」。様々な形をした立体的な駒を、ルールに従って動かしていく。このチャトランガが元になり、ヨーロッパのチェス、アジアの中国将棋や朝鮮将棋、タイのマーク・ルック、そして日本の将棋となっていったとされている。
しかし日本の将棋とチャトランガの大きな違いが二つある。駒が立体ではなく、文字で動きが示されていることと、相手の駒を取って自分のものにできることである。この「持ち駒」は、日本の将棋独自のルールだと言われている。
資料館の奥にある部屋で、私は長い時間を過ごした。それは伝統工芸の将棋駒の作り方の工程をビデオで流している小部屋である。職人たちが、小さな駒をひとつひとつ丁寧に切り出して、整えて、そして文字を書く。その細かな作業から生まれる将棋駒の美しさに、私は人の出入りも気にせず見惚れていた。
ウィルソン麻菜