未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
92

~ダムの聖地・みなかみ~

〝やぎなら〟ダム 大迫力の点検放流を見に行く!

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.92 |10 June 2017
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#10美しい奈良俣ダム

天端の上で放流を待つ。

 お昼を食べてまたシャトルバスに乗り込む。いよいよ最後の目的地、二度目の奈良俣ダムの放流だ。
 高草木さんがガイドするバスは山道を進んでいく。不意に前面の車窓いっぱいに、奈良俣ダムの威容が眼前に広がった。昨夜とはまた違って、ロックフィルの白さが日の光に当たって優雅だった。
 そのままバスで天端まで向かう。天端からの景色の眺めの、なんと雄大なことだろう。そろそろ夕方が近づく事を思わせる空が山の向こうには広がっていた。
 天端に降り立つとたくさんの人たちが、放流をいまかいまかと待ち構えていた。そして大きなサイレンが鳴った、と同時に水の音が山の上の空間いっぱいに鳴り響いていく。

天端からの雄大な眺め
  • いよいよ放流が始まった。
  • 高さ158mのロックフィルダムを歩いて体感する。

 三橋さんが「松本さん、ダムを歩いて降りてみましょう」と言った。奈良俣ダムはロックフィルの端にある遊歩道を使って、上り下りすることができるのだ。往復にはなんと50分もかかるという。
 奈良俣ダムの斜面は、普通のダムよりはずっとなだらかだが、遊歩道の傾斜は想像以上にきつかった。半分も降らないうちに、太ももがパンパンになって、足がワナワナとしてくる。しかしきつい分、その眺めは壮大だった。延々と続くこの白い岩の風景は人が作ったものだ。だけれど、いつの間にか自然と一体化し、水を守っているのだ。歩きながらそんなことを考えていた。

 やっとまた洪水吐きの下へと戻ってきた。相変わらず人がたくさんで、音に耳を傾けたり、写真を撮ったり、思い思いにダムを記録している。中には長い竿を使って撮影している人もいた。
 山の中に突如現れた、そんなお祭りのような風景に目をやりながら、私はまたしても水が作り出す不思議な音の響きに心を奪われていた。矢木沢ダムとは正反対の、静かな、でも力強い放流の音。これはずっと聞いていても飽きないなあ。本当に、水のトランスだ。と私はまた昨夜と同じ事を思った。

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未知の細道 No.92

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。