1時間の点検放流は、時間通りにぴったりと終わった。急に水量が減ったのを見て、今年の水の祭りが終わってしまったことに気づいた。
次にわたしたちはこれまた、今年初公開という場所「ビンズル橋」へと向かった。そこは東京電力の矢木沢発電所敷地内なので普段は立ち入ることができないが、ここで矢木沢ダムの写真を撮ると、ダムカードとほぼ同じアングルで撮れるという、マニア垂涎のスポットなのだ。東京電力もこの日のために一般開放に協力したという、普段では絶対にありえないことであり、なんだかもう本当に出血大サービスのダム祭りなのである。
ビンズル橋でニコニコとお客さんのことを見守っている、水資源機構の職員に出会った。三橋さんと仲良く話し込み始めたその人は、金山明広さんという。
三橋さんは「金山さんが、宮島さんたちダムマニアを最初に私に引き合わせてくれた人なんですよ」と言う。そうか、この人もダム人気の仕掛けに関わった人なんだ! と二人が話している姿を見て、なんだか感動してしまう私である。
金山さんと別れた後、三橋さんはこんな話をしてくれた。
「ダムってあって当たり前のもの、しかもダムはムダって言われていた時代もあったでしょう。ダムの専門家たちは技術屋さんで『サービス』という考えも、もちろん仕事の上ではなかった。それがこうやってインフラ観光としてダムが人に愛されるようになって、技術屋さんたちも嬉しくなっちゃったんですよね。今ではみんなが観光客へのサービスを率先してやっていますよ」
確かにダムカードを配る人、ヘルメットを配る人、案内をする人、警備をする人、写真を撮ってあげる人、昨日からずっと、出会ったダムの管理の人たちはみんな、ニコニコと手際よく観光客へのサービスをしている姿しか思い浮かばない。よく考えるとこれはすごく稀有な光景なのかもしれない。
松本美枝子