未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
92

~ダムの聖地・みなかみ~

〝やぎなら〟ダム 大迫力の点検放流を見に行く!

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.92 |10 June 2017
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#2まずは藤原ダムの点検放流へ

1952年に着工し、六年後に完成した歴史のある藤原ダム。地元の理解を得て完成するまでに長い苦難の道があった。

 前日の5月13日、みなかみ町へとたどり着くと、朝から雨が降り始めていた。さすが群馬県最北端で利根川の上流部、まだ肌寒かった。それもそのはず、日陰にはまだ雪がたくさん残っているのだ。

放流の瞬間を待つ。

 この日もすでにみなかみ町にある二つのダムで、さまざまな行事が予定されていた。「やぎなら」の点検放流に合わせて行われる「藤原ダム」の放流もその一つだ。

 さて待ち合わせ場所に三橋さんと5人の女性、そして男性が1人やってきた。女性の一人は澤浦厚子さんといって、みなかみ町の職員だ。今日は一緒にダムを見ながら、みなかみ町を案内してくれるとのこと。
 残りの5名の男女は、ライターに、地質学の専門家、エステ経営者、まちづくりコンサル事務所運営をしている人、金融関係にお勤めの人など、かなり様々な職種の人たち。三橋さんも含め、みんな、地形や地質、建築が好きで、「スリバチ学会」というまち歩きの仲間なのだという。中でも最近のみんなのもっぱらの興味はダムである。そこで三橋さんが休みの時はこうやって、みんなでダム見学を楽しんでいる、というわけだ。

いよいよ放流が始まった。

 さて雨足の強くなった藤原ダムへとたどり着く。藤原ダムはいわゆる重力式と言われるコンクリートダムだ。日本では最も多い型式で、圧倒的なコンクリートの量で、水圧を支えている。そして水をせき止めている部分全体を「堤体」と呼ぶ。
 あたり一帯に大きなサイレンが鳴り響き、いよいよ放流が始まった。思えば私はドライブの途中でダム湖を見に来ることはあっても、ダムの放流を見るのも、きちんと「堤体」そのものを見に来るのも、全く初めてのことである。クレストゲートと呼ばれる水の出口から、とめどなく水が吐き出されていく。そして、それは想像以上に壮大な眺めだった。

藤原ダムの見所は、国内最大の大口径のホロ-ジェットバルブ(利水放流管)を持っていること。この上に立つと力強い振動を感じる!
雨の中、ダム管理所の職員が観光客に何かを丁寧に配っていた。これが一体なんなのかは後にわかることになる……。
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未知の細道 No.92

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。