未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
92

~ダムの聖地・みなかみ~

〝やぎなら〟ダム 大迫力の点検放流を見に行く!

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.92 |10 June 2017
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#5それぞれの祭り前夜

白熱!深夜の「ダムかるた」大会!

 夜の奈良俣ダム見学の興奮も冷めやらぬ我々は、ホテルに帰っても、誰一人、さあもう寝よう、という人はいなかった。明日は朝7時出発だから本当は早く寝ないといけないのだが、やっぱり今夜は「ダムかるた」をしなきゃねえ! ということで、部屋でカルタ大会が始まったのであった。

 「ダムかるた」とは、その名の通り、全国各地のダムが絵札になったカルタだ。読み札には各ダムの特徴が詳しく書かれている。それぞれのダムの特徴をよく知っていないと、なかなか探すのが難しい。もちろんダム初心者の私には何が何やらチンプンカンプンだ。
 「ダムかるた」の制作は、あるダムマニアの一人が出版社とともに作ったものなのだが、全国のダムをよく学べるようにできており、やってみると実に面白い。
 ちなみに前述のダムカードのほか、国土交通省の人気ウェブサイト「ダムコレクション」なども、ダムマニアたちのアイディアがふんだんに盛り込まれている。つまり現在のダム人気とは、ダムを愛するマニアたちと、国土交通省側の仕掛け人とも言える三橋さん、そして地道にダムカードを配ってきてくれた全国のダム管理所職員たちの10年間の努力が花開いたものなのだろう。

 さて「ダムかるた」に戻ろう。三橋さんが読札を読むと、みんながバンバンと取っていく。札をとった後も、三橋さんがさらに詳しく一つ一つのダムの解説してくれるので、ダム初心者としては、たいへん勉強になる時間であった。ちなみに三橋さんはダムを解説する度に「この子はねえ……」と言う。それを聞いて、私は密かに胸を打たれていた。河川の専門家、土木の専門家である三橋さんにとっては、ダムは可愛い我が子も同然の存在なのだろう。

宮島さんを囲んでの交流会も深夜まで続いた。このポーズは旧建設省時代から伝わるという由緒正しき「ダム式万歳」だ。

 熱いカルタ大会もやがて御開きとなり、私は自分の部屋へと戻った。
 戻る途中、広間を覗くと、なんとまだまだ宮島さんを囲んでの交流会は続いている。私に気づいた宮島さんは、「どうぞどうぞ」と手招きしてくれた。宮島さんの周りでダム談義している宿泊客たちは、みんなとっても楽しそうだ。男性ばかりかと思ったら、意外にも若い女性も多い。

 実は宮島さんの本業は、都内の老舗料理店の後継ぎだ。そして宮島さんは、みなかみ町のみならず、今、全国のダムのある地域で展開されている「ダムカレー」なるメニューの考案者でもある。ダムカレーとは、ご飯を堤体に、ルーをダム湖に見立てたカレーのことだ。そしてダムマニアたちの旅は、ダムを見て、このダムカレーを食べる、というのがデフォルトらしい。

「宮島さん、ダムカレーの作り方を教えて欲しいのですけど」と私が言うと、宮島さんは笑ってこう訂正した。 「松本さん、違いますよー。ダムカレーは『作る』じゃなくて、正しくは『施工する』です!」 こうして楽しい夜は更けていったのであった。

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未知の細道 No.92

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。