夜の奈良俣ダム見学の興奮も冷めやらぬ我々は、ホテルに帰っても、誰一人、さあもう寝よう、という人はいなかった。明日は朝7時出発だから本当は早く寝ないといけないのだが、やっぱり今夜は「ダムかるた」をしなきゃねえ! ということで、部屋でカルタ大会が始まったのであった。
「ダムかるた」とは、その名の通り、全国各地のダムが絵札になったカルタだ。読み札には各ダムの特徴が詳しく書かれている。それぞれのダムの特徴をよく知っていないと、なかなか探すのが難しい。もちろんダム初心者の私には何が何やらチンプンカンプンだ。
「ダムかるた」の制作は、あるダムマニアの一人が出版社とともに作ったものなのだが、全国のダムをよく学べるようにできており、やってみると実に面白い。
ちなみに前述のダムカードのほか、国土交通省の人気ウェブサイト「ダムコレクション」なども、ダムマニアたちのアイディアがふんだんに盛り込まれている。つまり現在のダム人気とは、ダムを愛するマニアたちと、国土交通省側の仕掛け人とも言える三橋さん、そして地道にダムカードを配ってきてくれた全国のダム管理所職員たちの10年間の努力が花開いたものなのだろう。
さて「ダムかるた」に戻ろう。三橋さんが読札を読むと、みんながバンバンと取っていく。札をとった後も、三橋さんがさらに詳しく一つ一つのダムの解説してくれるので、ダム初心者としては、たいへん勉強になる時間であった。ちなみに三橋さんはダムを解説する度に「この子はねえ……」と言う。それを聞いて、私は密かに胸を打たれていた。河川の専門家、土木の専門家である三橋さんにとっては、ダムは可愛い我が子も同然の存在なのだろう。
熱いカルタ大会もやがて御開きとなり、私は自分の部屋へと戻った。
戻る途中、広間を覗くと、なんとまだまだ宮島さんを囲んでの交流会は続いている。私に気づいた宮島さんは、「どうぞどうぞ」と手招きしてくれた。宮島さんの周りでダム談義している宿泊客たちは、みんなとっても楽しそうだ。男性ばかりかと思ったら、意外にも若い女性も多い。
実は宮島さんの本業は、都内の老舗料理店の後継ぎだ。そして宮島さんは、みなかみ町のみならず、今、全国のダムのある地域で展開されている「ダムカレー」なるメニューの考案者でもある。ダムカレーとは、ご飯を堤体に、ルーをダム湖に見立てたカレーのことだ。そしてダムマニアたちの旅は、ダムを見て、このダムカレーを食べる、というのがデフォルトらしい。
「宮島さん、ダムカレーの作り方を教えて欲しいのですけど」と私が言うと、宮島さんは笑ってこう訂正した。 「松本さん、違いますよー。ダムカレーは『作る』じゃなくて、正しくは『施工する』です!」 こうして楽しい夜は更けていったのであった。
松本美枝子