未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
92

~ダムの聖地・みなかみ~

〝やぎなら〟ダム 大迫力の点検放流を見に行く!

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.92 |10 June 2017
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#7ついにダム汁を浴びる!

最初の放流が始まった瞬間を捉えた。

 矢木沢ダムの点検放流を見るためには天端から無料シャトルバスを使って放流口、通称ジャンプ台まで降りないといけない。当日は交通整理のため、この間の山道は徒歩禁止。バスは15分間隔で、ひっきりなしに観光客をピストン輸送していた。

 「このバスはみなかみ町の地元の人たちが考えて、昨年から始まったものなんですよね」と三橋さんが言う。一昨年の点検放流では1400人の人が訪れ、交通の混雑もだいぶあった。次からはおそらくもっと観光客が増えるだろう。ダムの観光に力を入れているみなかみ町は一念発起して、昨年からはダムの点検放流と宿泊地や駐車場をつなぐシャトルバスを出すことに決めたのだ。

  • 徐々に放流量が上がっていく。
  • ダムの点検や役割について丁寧に教えてくれた水資源機構の中原課長。

 10時半間際。ジャンプ台の周りには、どんどん人が集まってきていた。時間ぴったりについに放流が始まった。歓声が上がった。
 すると三橋さんに声をかける男性が現れた。水資源機構の中原忠義課長だ。中原課長は「これから11時半までの1時間の間、10分刻みで、6トンずつ、水量をあげて、点検放流していくんです」と丁寧に教えてくれた。夏が来ると必ず大雨が降る。この放流は、その前にちゃんとダムのゲートが作動するかどうかを確認する、大事な点検なのだ。

「そろそろ水量が上がりますから、ジャンプ台の真下に行ってみましょう!」という三橋さんの言葉で私たちは、前へと移動した。そこはもう人が押し合いへし合いの大混雑だ。みんなカッパを着込んでいる。ここら辺は雨のように雪解け水のしぶきが降り注ぐのだ。ダムマニアたちはそれを「ダム汁」と呼び、喜んで浴びに行くのだという。三橋さんは「この前NHKでもダム汁って言ってたから、正式な日本語になったんじゃないかな」と笑っていた。

「松本さん、カメラが死なないように気をつけてね」と真面目な顔で三橋さんに言われて、私は気を引き締めた。と思った瞬間、激しい水しぶきが頭上を舞った、あちこちで大歓声が上がる。

ダム汁を浴びる人

 それはそれは見事な光景だった。こんな圧倒的な水の塊、見たことがない。海の波とも違う、30トンの強烈な水の力は、日光を浴びながら、楽しい祭りのように、歓声を上げる人たちの上に降り注いでいた。水を浴びること、水の塊を写真に収めること、私も周りの人たちも、ただただ、この瞬間を夢中で楽しんでいた。

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未知の細道 No.92

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。