そういえば最近は香港の若いプロダクトデザイナーの器作りの仕事が面白かったね、と二人は笑いながら、設計図や生地や型の現物を見せてくれた。型は山辰さんが、生地は藤さんが担当したのだという。
若くて活きのいい外国人のアーティストたちは、作るものが面白い。でもまだお金がないから、正直こっちももうけられるような話でもない。
でもそういう他が断るような仕事は受けてあげた方が面白いんです、と山口さんは言う。がんばって面白いものを作っている外国人が来てくれて、良い作品をつくって、有田でいい仕事ができたよ! と自分の国で言ってくれれば、また何かにつながるかもしれないし、と山辰さんは言う。
そういえば外国人のアーティストたちは、「有田はパラダイス!」て、みんな言いよらすなあ、と二人は笑って教えてくれた。他の場所だったら、石膏、陶土、それから釉薬などの薬、様々な道具など発注してから何日もかかるような材料が、有田ではすぐ手に入る。そして様々なプロフェッショナルの職人さんたちが町中に散らばっている。何かあったらこの二人のように、すぐ別の部門の職人さんたちに聞きに行くことができるネットワークもある。
そんな焼き物を作る人間にとって最高の場所は多分、この広い世界の中でもほんの少ししかなくて、間違いなく有田はそのトップレベルの技術がある場所なのだ。
聞けば聞くほど奥が深い二人の話を聞いていると、私はあることに、ふと気づいた。
みんな有田焼は「型」で大量生産とか、「機械ろくろ」とか言ってるけど、これって、大量にあるだけで、でもその大量の製品は、型も生地も釉薬がけも絵付けも、もしかして全部手作りなんじゃないの……?ということに。
私は恥ずかしながら有田にくるまで、有田焼の名品とは、いわゆる作家ものと呼ばれるような、有名な窯元や有名な磁器作家が作る手作りのものだけだと思っていた。そしてそれ以外のもの、例えばデパートなどに同じ形で揃って売られている磁器などは、みんな機械が作っている。そう思い込んでいたのであった。でも多分、日本全国ほとんどの人がそう思っているんじゃないだろうか……?
有田焼のすごいところは、芸術的な部分ももちろんあるけれど、もう一つのすごさの側面とは、質の高い器が全て手作りによって、しかもたくさん作られて、それが世界中に流通して人々に愛用されている。そういうことなんだ! とやっと気づいたのだった。
それを興奮気味に二人に伝えると「実は良い焼き物ってほぼ全部、手作りなんですよ」と教えてくれた。
二人の工房をあとにして、その帰り道の車の中で、私は佐々木さんと深江さんにこういった。
もしかしたら、もしかしたら……この21世紀の現代において、焼き物に限らず、すべての技術の高い製品って、ほとんどは人間の手によるものなんじゃないの? そしてこれから、どんなに時代が進んだとしても、本当に良いものづくりは、まだまだ人間の手でしか、作れないんじゃないだろうか?
そのことをこの産業の町、有田が教えてくれたのが、私ここに来て、一番、感動したことかもしれないな。
そう言うと二人はうんうん、と頷いていた。
松本美枝子