最初に藤さんの仕事を見せてもらう。まず「機械ろくろ」と呼ばれる機械をセットする。ヘラが取り付いたアームの角度などを慎重に調整し、位置を決める。それから回っている型の中に陶土を入れて、アームを下ろして型の中に薄い生地を成形していく。
ろくろから型を外し、同じことを繰り返してうちに、だんだん、それがたまってくる。ものによって5分から30分くらいだが、しばらくそのままにしておくと石膏型に水分が吸われて中の生地が少し型から外れてくるので、そのタイミングを見計らって手で型を軽く叩いたりゆすったりしながら、さっと生地を型から外す。ちょうどよく身離れするタイミングに藤さんが型をゆすると、まだ本当は完全に固まっていないはずの薄い生地が、でもちゃんとした形を保ったまま、するんと出てくる。それは魔法のような光景だった。
ほかにも完全に乾燥したものに削りを入れたりして、発注先(窯元や商社)の要望通りのものを一つずつ手作業で作り上げていく。藤さんはこのような作業を繰り返しながら、1日数百個も同じ生地を寸分の狂いなく、作り上げるのだ。
生地屋の仕事でポイントとなるのは、完成品、つまりこのあと釉薬や絵付けを施して焼成された焼き物を想像して作る、ということだ。生地は焼成されると約13%~15%縮む。縮むことを想定して、大きさを決めて作るのだ。生地の厚さも均等ではない。それに茶碗などの口が直接つく部分は当たりが滑らかでなくてはならない。
藤さんはそういったデータを頭の中に入れながら、自分の手の感覚だけを頼りに、生地を作り上げるのだ。それもどの部分も狂いがように、同じ生地をたくさん。もちろんデータはすべて、細かくノートやサンプルに書き込んでいる。
無駄のない動作で、ポンポンと美しい形の生地が出来上がっていく様子を見ていると、いつまでもそこで作業を眺めていられるような気がしてくる。本当にすごいですねえ……と私がみとれながら言うと「いやー昔からやってて、この仕事しか知らんいから、これが凄かかどうかわからん、覚えれば誰でもできるっちゃねー」と藤さんはニコニコしながら言うのだが、私は「いや、こんな難しいこと、絶対、誰でもは、できないんじゃ……?!」と心の中で思った。
松本美枝子