未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
85

日本陶磁器・発祥の地 有田町に暮らす人々(前編)

陶磁器の町を支える職人さん お隣り同士の生地屋と型屋

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.85 |25 February 2017
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#4役場のエース

小雪がちらつく天神森

 有田について3日目、朝から小雪がちらついている寒い日であった。重要伝統的建造物群保存地区に選定されている有田内山地区、その一角にある「春陽堂」で佐々木さんが、深江さんに引き合わせてくれた。すらっと細くて背の高い深江さんは、有田町役場の商工観光課の職員だ。毎日朝5時に起きて走っているという深江さんは学生時代、早稲田大学の競走部に所属し、今も有田町の駅伝チームにキャプテンとして所属している、文字どおり「エース」である。ちなみに佐々木さんも同じ大学出身の3個下の後輩なのだそうだが、もちろん有田に帰ってくるまでは、二人は会ったことがなかったそうだ。今はこうして一緒に有田のまちづくりのために働いている、仲が良い同僚同士だ。

 私が「有田の町の歴史について深く知りたい、みんながまだ知らない有田、というものがもしあれば、そういうものをテーマに作品を作ってみたい、というと、深江さんは、「わかりました。じゃ、僕のセレクトの有田でいいですか? 早速行きましょう」と立ち上がったのだった。

 そこは町の中心地から少し外れた天神森という神社だった。鳥居の上の小さな丘を上がってみましょう、と言われて登る。茂みの中に目を凝らすと岩のようなものがある。それは岩ではなく、なんと古い古い窯跡なのだった。そして足元には400年前の陶器の欠片や、磁器らしき欠片がポツポツと散らばっている。なんの変哲もない場所に、本物の歴史が落ちているのか、と思うと、胸がジーンとするような感動があった。

400年前の窯跡

「有田では、磁器が焼かれる前に陶器が焼かれていて、ここは、有田で陶器を作る技術から磁器を作る技術へと転換したことがはっきりとわかる土地なんです。有田=磁器の町だから、普通の観光客はめったに連れてこないところですけど、松本さんは、きっとこういう有田を見たいんじゃないかな、と思って」と深江さんは真面目な顔をしていった。

 明日はまた違うところに行きましょう、という深江さんの有田町リサーチツアーに、私はこのまま乗っかることにした。そしてそれからの数日間というもの、普通の観光では決していけないような様々な作り手たちの仕事場や、歴史的な場所に、佐々木さんと一緒に連れて行ってもらったのだった。

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未知の細道 No.85

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。