藤さんと山辰さんは得意とする分野がちょっと違うので、いつも一緒に仕事するわけではないが、それでも二人は話が合うらしく、しょっちゅう行き来している。山辰さんのところで話し込んでいると、藤さんが「山口くん、これば測ってー」と言って生地を持ってやってきた。
山辰さんのところには珍しい機械が沢山あって、立体の厚みを測る道具があるのだ。その他にも原型を削るための彫刻刀のような道具が沢山あるが、それはほとんど手作りなのだという。車のワイパーの中にあるよくしなる金属を使ったり、百円ショップのステンレス製の台所道具を切り出して改造したり、普段から山辰さんはいろんなものを見ては、「あ、削り出しの道具になるな、これは……」などと、いつも考えてしまうのだ、と笑う。
藤さんにしても、それは同じだ。機械ろくろのアームに取り付けるヘラは全て、それぞれの生地を整形する時にベストになるように、一つ一つ削ってカスタマイズする。また山辰さんと同じく、成形するときには、その時その時に合わせて小さな道具を作る。以前、生地に小さな穴を開けてほしいという依頼があった時に、いろいろ試しているうちに傘の骨のアールがぴったりなことに気づいて、骨を切り出してそれ専用の道具を使ったこともあったという。この道具はその時一回きりしか使ってないそうだが、「また同じ依頼がくるかもしれんけんから、なんでもとっておくっちゃんね」と藤さんは言う。
有田焼の生産ラインの特徴の一つに、どんなものでもとっておく、ということがある。型屋は型や原型のスケッチやデータ、生地屋は見本やデータを、大元である窯元には生地や型の現物や実際の商品など、それらはどの部門でも、30年以上前のものをとっておくのはザラだ。どの職人さんたちも、どんなに前の注文でもまた入ってくることがあるかもしれんから、と口を揃えて言う。
商社や窯元から、「現物はもうないんだけど、昔作ったあれと同じものをまた作って欲しい」と頼まれることはしょっちゅうあるのだそうだ。どんなに難しい仕事が来ても、絶対に断らないように、請け合えること。それが有田の作り手たちのすごいところなのだ。
松本美枝子