未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本陶磁器・発祥の地 有田町に暮らす人々(前編)

陶磁器の町を支える職人さん お隣り同士の生地屋と型屋

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.85 |25 February 2017
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#9職人は道具が大事

生地の厚さを測る山辰さん

 藤さんと山辰さんは得意とする分野がちょっと違うので、いつも一緒に仕事するわけではないが、それでも二人は話が合うらしく、しょっちゅう行き来している。山辰さんのところで話し込んでいると、藤さんが「山口くん、これば測ってー」と言って生地を持ってやってきた。

 山辰さんのところには珍しい機械が沢山あって、立体の厚みを測る道具があるのだ。その他にも原型を削るための彫刻刀のような道具が沢山あるが、それはほとんど手作りなのだという。車のワイパーの中にあるよくしなる金属を使ったり、百円ショップのステンレス製の台所道具を切り出して改造したり、普段から山辰さんはいろんなものを見ては、「あ、削り出しの道具になるな、これは……」などと、いつも考えてしまうのだ、と笑う。

 藤さんにしても、それは同じだ。機械ろくろのアームに取り付けるヘラは全て、それぞれの生地を整形する時にベストになるように、一つ一つ削ってカスタマイズする。また山辰さんと同じく、成形するときには、その時その時に合わせて小さな道具を作る。以前、生地に小さな穴を開けてほしいという依頼があった時に、いろいろ試しているうちに傘の骨のアールがぴったりなことに気づいて、骨を切り出してそれ専用の道具を使ったこともあったという。この道具はその時一回きりしか使ってないそうだが、「また同じ依頼がくるかもしれんけんから、なんでもとっておくっちゃんね」と藤さんは言う。

二人の道具はほとんどが手作り。

 有田焼の生産ラインの特徴の一つに、どんなものでもとっておく、ということがある。型屋は型や原型のスケッチやデータ、生地屋は見本やデータを、大元である窯元には生地や型の現物や実際の商品など、それらはどの部門でも、30年以上前のものをとっておくのはザラだ。どの職人さんたちも、どんなに前の注文でもまた入ってくることがあるかもしれんから、と口を揃えて言う。

 商社や窯元から、「現物はもうないんだけど、昔作ったあれと同じものをまた作って欲しい」と頼まれることはしょっちゅうあるのだそうだ。どんなに難しい仕事が来ても、絶対に断らないように、請け合えること。それが有田の作り手たちのすごいところなのだ。

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未知の細道 No.85

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。