いつまでも見飽きない藤さんの仕事場を一旦お邪魔して、続いてすぐ隣の山辰さんの工場へ。工場には小さなものから重さ50キロくらいはありそうな巨大なものまで、様々な石膏型がやはり所狭しと並んでいる。もう一人の職人さんが仕事をしていて、聞くと弟さんだという。山辰製型所は家族でやっている工場なのだ。
型屋の仕事はまず原型を起こすところから始まる。発注先と相談しながら、実際に出来上がる商品より約13%~15%大きい原型を完成させたら、それを元に石膏で型を作っていくのだ。原型を使って型のための型(ケース型)を作り、ケース型から、実際に納品される「型」を作る。何度聞いても頭がこんがらかってしまうのだけど、山辰さんは笑いながら、誰が聞いても、わからないから大丈夫ですよ、と言ってくれた。
簡単に言うと、山辰さんはこれから大量生産される有田焼を想像しながら、その生産ラインのための「空間」を作り続ける人なのだ。それは目にみえる形が手元に残る仕事でない。不思議だがとてもクリエイティブな仕事なのだ。普通にはない特殊な仕事でしょうねえ、と山辰さんは笑って言った。
有田焼はこの型によって、高級な商品を大量生産することができる。藤さんのような機械ろくろの生地屋さんで使うような器の型もあるが、泥漿(水分の多いドロドロの陶土)を流して作る鋳込みという方法で作られる複雑な形の焼き物(急須や人形などの立体など)の型も多い。山辰製型所では、シンプルな器の型よりも、立体や人形のなど複雑な型を得意としているということだ。
そういう彫刻のような仕事を得意とする山辰さんの工場では、いわゆる有田焼の器の型だけではなく、国内外の様々な企業やアーティストからの発注も多い。例えば大手企業のノベルティのマスコット人形を頼まれる時もあれば、まだ若くてそんなに予算はないけれど、いいものを作っている外国人のデザイナーだったりと、発注先も様々だ。
最近では人気画家である小松美羽さんの絵から、狛犬に起こしてほしいと発注され、その有田焼の狛犬は、なんと大英博物館に所蔵されているというのだから驚きだ。
松本美枝子