未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本陶磁器・発祥の地 有田町に暮らす人々(前編)

陶磁器の町を支える職人さん お隣り同士の生地屋と型屋

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.85 |25 February 2017
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#8型屋の仕事

石膏を練る山辰さん兄弟

 いつまでも見飽きない藤さんの仕事場を一旦お邪魔して、続いてすぐ隣の山辰さんの工場へ。工場には小さなものから重さ50キロくらいはありそうな巨大なものまで、様々な石膏型がやはり所狭しと並んでいる。もう一人の職人さんが仕事をしていて、聞くと弟さんだという。山辰製型所は家族でやっている工場なのだ。

 型屋の仕事はまず原型を起こすところから始まる。発注先と相談しながら、実際に出来上がる商品より約13%~15%大きい原型を完成させたら、それを元に石膏で型を作っていくのだ。原型を使って型のための型(ケース型)を作り、ケース型から、実際に納品される「型」を作る。何度聞いても頭がこんがらかってしまうのだけど、山辰さんは笑いながら、誰が聞いても、わからないから大丈夫ですよ、と言ってくれた。

 簡単に言うと、山辰さんはこれから大量生産される有田焼を想像しながら、その生産ラインのための「空間」を作り続ける人なのだ。それは目にみえる形が手元に残る仕事でない。不思議だがとてもクリエイティブな仕事なのだ。普通にはない特殊な仕事でしょうねえ、と山辰さんは笑って言った。

 有田焼はこの型によって、高級な商品を大量生産することができる。藤さんのような機械ろくろの生地屋さんで使うような器の型もあるが、泥漿(水分の多いドロドロの陶土)を流して作る鋳込みという方法で作られる複雑な形の焼き物(急須や人形などの立体など)の型も多い。山辰製型所では、シンプルな器の型よりも、立体や人形のなど複雑な型を得意としているということだ。

 そういう彫刻のような仕事を得意とする山辰さんの工場では、いわゆる有田焼の器の型だけではなく、国内外の様々な企業やアーティストからの発注も多い。例えば大手企業のノベルティのマスコット人形を頼まれる時もあれば、まだ若くてそんなに予算はないけれど、いいものを作っている外国人のデザイナーだったりと、発注先も様々だ。

 最近では人気画家である小松美羽さんの絵から、狛犬に起こしてほしいと発注され、その有田焼の狛犬は、なんと大英博物館に所蔵されているというのだから驚きだ。

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未知の細道 No.85

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。