北海道で一番小さな村「音威子府(おといねっぷ)」。通りかかったその村で、大地を埋め尽くすお花畑に出くわした。思わず見とれていると、またもや地元の方が声をかけてくれた。何の花か聞いてみると、なんと「蕎麦」。注目の蕎麦農家さんが近くに住んでるよ、ということで紹介してくれたのが、“ねっぷえいど”の玉田健さん。
「音威子府は、夏は30度、冬は-30度になる日もあるぐらい厳しい山間部にあって、昼と夜の気温の差もほんとうに激しいんです。でも、そのおかげで蕎麦にギュッと甘みが詰まったり、香りが良くなったりするんです」
そういえば通りに蕎麦屋さんを見かけた気がします、と言うと「音威子府蕎麦といえば“黒い蕎麦”。はじめて食べた人は衝撃を受けるような強烈な風味やコシがあるんですが、僕たちはちょっと変わった蕎麦を作っていて。“発芽そば”といって、ふつうは蕎麦の実をそのまま砕くんですけど、あえて少し芽を出させることで、実の中の成分が動くんですよね。たとえばルチンという“蕎麦のポリフェノール”と言われる成分が増えたり。それを石臼で粉にすると、ふつうの蕎麦よりも“まろやか”で食べやすくなるんです」と教えてくれました。そんな玉田さんは30歳。音威子府では若手農家が増えていて、新しい試みが次々と生まれているという。道の駅で買える玉田さんの蕎麦「発芽むらおこし」を食べつつ、昔ながらの黒い蕎麦と比べてみる。すると、その絶景は味わいを増すのであった。
----絶品は絶景のもと。名物料理の背景に絶景アリ。----
ライター 志賀章人(しがあきひと)