取材の日、15時過ぎに郷土資料館の3階に足を運ぶと、学校を終えたばかりの12人の小学生と3人の中学生がベーゴマで遊んでいた。井出さんは外出中だったが、子どもたちには事前に取材のことを伝えてもらっていたこともあり、フレンドリーに迎えてくれた。
みんな、すぐに僕に興味を失い、ベーゴマを始めた。いくつもある床の周りに3、4人で集まり、「かまえて!ちっちのち!」の掛け声とともに、飽きることなくベーゴマを回し続けている。
「ちっちのち!」ってなんだろう? 川口市特有のものなのかと思って調べたら、そうでもないようだ。現在、コミックスが201巻まで発売されている超長寿漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』で何度かベーゴマが登場する回があり、主人公の両津勘吉がベーゴマを回すたびに「ちっちのち!」と言っている。
それにしても、子どもたちが今どきの服装をしているのを除けば、完全に昭和の光景だ。小さな女の子も、大人びた中学生も、輪になってベーゴマに興じている。物静かな子もいれば、おしゃべりが止まらない子もいるけど、みんなフラットな感じで「ちっちのち!」。その場にいた子どもたちのなかで、最年少だと思われる女の子に話を聞いた。
小学校1年生だというその子は、先にベーゴマを始めていたお兄ちゃんの影響で郷土資料館に通い始めて「3、4カ月ぐらい」。なにが楽しい?と聞いたら、「回せたら楽しい」。
お気に入りは、青と黄色で模様を塗ったベーゴマ。これが「デコレーションベーゴマ(デコベー)」か! ベーゴマをマニキュアで色付けする文化があると日三鋳造所の篠原さんから聞いたばかりだった。かわいいね、というと、シャイそうな女の子ははにかんだ。