鋳物とは、砂を固めて作る「砂型」に溶かした金属を流し込み、冷やして固めたものを指す。鋳物は、土木建築や機械部品として多く使用される。
郷土資料館に展示されている資料によると、鋳物の型を作るのに適した砂や粘土が採れること、市内を通る日光御成道(江戸時代、歴代将軍が日光東照宮にお参りする際に通った道/埼玉県ホームページより)や荒川を利用する舟運が整備され、江戸へのアクセスが良かったことから、江戸時代より鋳物産業が盛んになった。
昭和の中頃に迎えた最盛期には鋳物に関係する企業が川口市内におよそ600社あり、日本のシェアの3割を担った。その鋳物の街で造られるようになったのが、ベーゴマだ。
「例えば1トンの製品を作るのに、1トンぴったりの鉄ではなくて、ちょっと余分に溶かすんです。その余った鉄で造られたのがベーゴマでした」(井出さん)
「鋳物って電車の車輪の一部とか部品に使われることがほとんどで、鋳物単体で製品になるものってあまりないんですよ。製品としては、例えば砲丸投げで使われる砲丸が有名です。ベーゴマは世界最小の鋳物製品なんですよ」(中島名人)
今も多くの企業が鋳物に携わる川口市では、小学校3年生の社会科見学で鋳物工場を訪ねてきた。コロナ禍以降はライブ配信のオンライン授業になったが、20年以上前から変わらないのは、お土産として川口鋳物工業組合から参加した生徒全員に日三鋳造所のベーゴマが贈られることだ。ということは、市内の小学3年生全員がベーゴマを持っていることになる。これに目を付けたのが、井出さんだった。
ここから少し寄り道して、井出さんの歩みを振り返ろう。