郷土資料館で取材を始めて30分ほど経ったタイミングで、井出さんと中島名人が外出先から戻ってきた。ふたりは2022年秋から、市内の小学校3年生に「出前授業」で、ベーゴマを教えている。取材の日も、6時間目までベーゴマ授業が入っていたそうだ。ふたりが姿を現すと、子どもたちのテンションが一段と、いや、二段、三段と盛り上がるのがわかった。
ふたりは今、川口市の子どもたちの間でアイドルばりの人気と知名度を誇る。毎月第4土曜日、高速道路の休憩施設「川口パーキングエリア」と川口市が運営する公園「イイナパーク川口」が連結した施設「川口ハイウェイオアシス」で開かれている「中島名人のベーゴマ教室」には、子どもたちが50人、60人と参加する。付き添いの親を含めると100人前後が集まる人気教室だ。
一方、井出さんが土日や祝日に出勤する日には、9時半から16時半までの開館時間に、およそ100人の子どもが訪ねてくる。もちろん、目的はベーゴマだ。
井出さんから、ほんの数年前まで郷土資料館の有料入館者が一カ月に数人程度という月もあったと聞いて驚いた。それが2023年度には、入場料50円を支払って入館する小中学生が年間2300人を記録した。井出さんが出勤する土日、祝日になると1日で100人に達するようになった2024年度は、年間3000人を優に上回るだろう。
10年以上前から続く中島名人のベーゴマ教室も、実は長らく参加者10人程度だった。それがここ数年、右肩上がりで参加者が増えている。その背景には、出張ベーゴマ授業がある。
そもそも、なぜ川口市でベーゴマなのか?