栃木県鹿沼市
日本文化の神聖な場面では、あちこちで「麻」が使用されている。私たちは「麻」という植物のこと、どれだけ知っているんだろう。生産地である栃木県鹿沼市で、麻農家を営む大森さんを訪ねた。
最寄りのICから【E4】東北自動車道「鹿沼IC」を下車
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「自分の名前の意味を、親に聞いてきましょう」という宿題があった。
たしか小学校低学年くらいだったと思う。「麻菜」という名前の持つ意味を、帰宅後に母に尋ねると、漢字の意味から教えてくれたのを覚えている。それまでは音の響きだけで認識していた自分の名前が、漢字とともに初めて意味合いを持った。
「麻という植物はとっても強いんだって。強くてたくましい子に育ってほしいなあと思って、その字にしたんだよ。そこに春生まれだから菜の花の『菜』をつけたの」
当時、麻についてはなにも知らなかったけれど、とにかく強い植物なんだというイメージがしっかりとついた。
麻とは、アサ科アサ属の「大麻草」のことだ。今では海外から持ち込まれた亜麻(リネン)なども含めて「麻」と呼ばれるが、もともと日本では大麻草のことを麻と呼んだ。大麻草と聞くと、なんだか危ないもののようなイメージをもつ人もいるかもしれないが、麻は本来、とても神聖なものとして扱われてきた植物。神道の祓い具である「おおぬさ」や、神社にあるしめ縄、横綱のしめ縄にも、麻が使われる。
それらに使われているのは、麻のなかでも「精麻(せいま)」と呼ばれる繊維部分。麻の茎の表皮を剥ぎ、さらに削り上げたものだ。
この日、私はその精麻をつくる工程を体験させてもらいに、栃木県鹿沼市にある野州麻紙工房(やしゅうましこうぼう)を訪ねた。この工房を運営する株式会社ジャパン・ヘンプ・クリエーション代表の大森芳紀さんは都道府県知事の免許を受けて、栽培や繊維加工を生業とする麻農家の8代目。今回、時期的に畑を見せてもらうことは叶わなかったが、大森さんが体験用の麻を準備して私を迎えてくれた。