ギャラリーやカフェでは、麻がさまざまな素材としてふんだんに使われている。「この建物自体、大森が20代の頃に古い木材と麻でつくった建物なんですよ」と、スタッフの方が教えてくれた。麻垢が練り込まれているザラザラとした壁に描かれた曲線の模様が、麻でなにかを作り上げたいという若い日の大森さんを想像させた。
店内に入ってまず目を引くのは、麻紙を使った大きなランプシェード。遠くから見ても質感が伝わってくるような力強さがあり、灯りをふわっと包み込む温かさも感じる、不思議な照明だ。
活かせるようになった素材は、麻垢だけではない。茎の芯部分である麻殻も、「炭」へと姿を変えてギャラリーに並ぶ。麻殻はもともと、お盆の迎え火や送り火のときに使われているほか、昔から花火の原材料として活用されてきた。ただ、高齢化によって生産できる人が減り、現在では麻炭をつくることができるのは大森さんだけだ。花火用にできない麻炭の用途は多様で、消臭用のスティック、食品に混ぜて使えるパウダーやバスソルトなどのケア商品など多岐にわたる。
さらに現在は、麻殻を石灰と配合してコンクリートのような建材にする「ヘンプクリート」の制作も進んでいる。カフェの横にある事務所は、ヘンプクリートを使って建てられていると聞いて驚いた。ざらっとした質感の壁はとても丈夫そうな上に、室内は暖かい。多孔質である麻の強みが特徴で、湿気や音を吸収したり、断熱効果もあるとのこと。原材料は麻と石灰のみなので、建物を壊す時には畑に還せるそうだ。
今、大森さんのもとには、色違いなども含めると4500種類ほどの商品がある。そのすべてが「麻」というひとつの植物からでき上がっていると思うと、その可能性の大きさを感じずにはいられない。
「今、炭やヘンプクリートはなんとか形になるところまできて、これからはもっと磨いて本当に良いものにしていかないといけないと思っています。麻でやりたいことも、できることもいろいろある。麻という素材が、まだまだ可能性を秘めていることを日々感じています」