「正直、麻は全然足りていない」と大森さんは言う。
日本に8万社あるといわれる神社のうち、今は1%ほどにしか国産の麻を供給できていない現実がある。麻の需要が、日本にはまだまだあるのだ。また、花火用の麻炭は、1軒の花火屋で2トンほど使うが、大森さんのところではどんなにがんばっても5トンが限界。今は限定的にしか使ってもらえていないのがもったいないと語る。
「今は、なんとか文化と技術をつないでる状態なんですよね。これまでは神社さんに渡せるグレードの精麻以外の行き先がなかったですが、今は他の使い道もあります。いろいろ失敗もあるし、試行錯誤は尽きないですけど。終わりがないところが楽しいですよね」
どうすれば素材を活かせるか、どうすればもっといいものが作れるのか。試し続ける道のりそのものを楽しめる大森さんは、本当に物を作ることが好きなのだと思った。そして、同じものが生まれない自然の素材「麻」は、大森さんの制作意欲を掻き立てるのかもしれない。
「最近は台風や豪雨が増えてきて、麻が倒れてしまうことも多いんです。以前なら諦めて土に戻すしかなかったけれど、今は雹が降ってきて茎だけになっても、とりあえず収穫してヘンプクリートにするか、と思える。ちゃんと活用できるようになってよかったなと思いますね」
母に教わった「麻はたくましい植物だ」という言葉が頭をよぎる。大森さん自身も麻のようにたくましく、そしてしぶとく麻と向き合っているのだ。
「そうですね、しぶといと思いますよ」
そう笑う大森さんの表情は力強かった。台風が来ても、雹が降っても、倒れたままではいられない。麻という植物の強さは今、さまざまな形に姿を変えて私たちの暮らしに散りばめられ始めている。