未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
249

知られざる「麻」のポテンシャル 家業を広げた8代目が魅せる、麻のある暮らし

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.249 |15 Jan 2024
この記事をはじめから読む

#2麻の茎から皮を剥がす「麻はぎ」

発酵させた麻の茎部分を準備して待っていてくれた。

ぬるっ……。

麻の茎を触ったときの感触である。触った手を顔に近づけると納豆のような匂いがした。

「ああ、ほとんど同じ菌かもしれません。加工がしやすいように、まずは収穫した麻を発酵させるんです。植物についている菌をそのまま利用するので、納豆を発酵させるワラの菌と近いものがあると思います」

麻の発酵には、3日半かかる。麻舟(おぶね)と呼ばれる専用の容器に麻を入れ、朝と夕方にくるくると回しながら寝かせる。それだけでも手間がかかるのに、冷え込む日は発酵が止まらないよう、夜中に布団をかけに行くこともあるそうだ。もはや子育てのようなケア。発酵しすぎると繊維が切れて短くなる上に艶もなくなるが、逆に足りないとうまく剥がれない。発酵の具合は、麻加工の肝なのだ。

麻の加工方法は用途によって変わってくる、と大森さんは言う。畳糸や文化財の修復など、必要とされる形に姿を変え、麻は私たちの暮らしを支えてきた。大森さんが8代目となる栃木県鹿沼市の麻農家では、主に神事用の精麻を生産、販売している。

「現在でも、販売先の8割は神事用です。畑作業がある夏以外は、常に麻を精麻にする加工をしています」

早速、私も精麻づくりの一部を体験させてもらう。ぬるっとした麻の茎をしっかりと握りしめて、「麻殻(おがら)」と呼ばれる芯部分をバキッと折る。そのまま、外の繊維だけをぴぃっと剥いでいくのだ。なんとも優しく丁寧な大森さんの手つきを見ながら、改めて大事に育ててきた植物なのだと感じた。

  • バキッと折って……
  • 指にかけた皮をぴぃっとはいでいく。

お手本は簡単そうに見えていたのに、手が滑ったり繊維がひっかかったりして、なかなか思うようにいかない。大森さんに見守られながら、なんとか5本ほど麻はぎをしたところで、次の体験に進むことにした。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。