ぬるっ……。
麻の茎を触ったときの感触である。触った手を顔に近づけると納豆のような匂いがした。
「ああ、ほとんど同じ菌かもしれません。加工がしやすいように、まずは収穫した麻を発酵させるんです。植物についている菌をそのまま利用するので、納豆を発酵させるワラの菌と近いものがあると思います」
麻の発酵には、3日半かかる。麻舟(おぶね)と呼ばれる専用の容器に麻を入れ、朝と夕方にくるくると回しながら寝かせる。それだけでも手間がかかるのに、冷え込む日は発酵が止まらないよう、夜中に布団をかけに行くこともあるそうだ。もはや子育てのようなケア。発酵しすぎると繊維が切れて短くなる上に艶もなくなるが、逆に足りないとうまく剥がれない。発酵の具合は、麻加工の肝なのだ。
麻の加工方法は用途によって変わってくる、と大森さんは言う。畳糸や文化財の修復など、必要とされる形に姿を変え、麻は私たちの暮らしを支えてきた。大森さんが8代目となる栃木県鹿沼市の麻農家では、主に神事用の精麻を生産、販売している。
「現在でも、販売先の8割は神事用です。畑作業がある夏以外は、常に麻を精麻にする加工をしています」
早速、私も精麻づくりの一部を体験させてもらう。ぬるっとした麻の茎をしっかりと握りしめて、「麻殻(おがら)」と呼ばれる芯部分をバキッと折る。そのまま、外の繊維だけをぴぃっと剥いでいくのだ。なんとも優しく丁寧な大森さんの手つきを見ながら、改めて大事に育ててきた植物なのだと感じた。
お手本は簡単そうに見えていたのに、手が滑ったり繊維がひっかかったりして、なかなか思うようにいかない。大森さんに見守られながら、なんとか5本ほど麻はぎをしたところで、次の体験に進むことにした。