岡山県美咲町
緑の棚田が広がる静かな集落に、ポツン、ポツンと不思議なオブジェや奇抜な壁画がある。作ったのは、パリにある伝説的なアトリエから遥々やってきたアーティストたちだという。なぜ棚田の限界集落にパリ!? 世界のアーティストと地元の人々をごちゃ混ぜにして、新たな風を吹かせる風雲児たちに話を聞いた。
最寄りのICから【E2A】中国自動車道「院庄」を下車
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岡山県美咲町大垪和(おおはが)。
標高400メートルの緑深い山のなかに、360度ぐるりとすり鉢状の棚田が広がる。
日本のなかでも絶景中の絶景だろう。どうして、ここが世の中であまり知られていないのか不思議なくらいだ。
え? 美咲町を知ってるって? 「たしか、卵かけごはんの町でしょ」と思ったあなたは大当たり。そうそう、ここは卵かけごはんが有名なんだけど、実はその他にも見るべきものがあるのです。
ほら、棚田を見下ろすように立つ、トーテムポールのようなオブジェが。ネイティブアメリカンが作ったような、もしくは古代遺跡のような。その先端には、大きなガラスがついていて、覗き込めば……ガラスのなかに棚田の緑と空の青さが映り込む。作ったのはアルゼンチン人アーティスト、ジャミラ・マラニョンだ。
そう、アート。この町にはたくさんのアートがあるのだ。
ほら、卵かけごはんで有名な「食堂かめっち」の脇には、高さ3メートルの巨大な「夢のたまご」。亀甲駅の前にはサーカスをイメージした巨大パネル。そして公園の一角にはラファエロを彷彿とさせる優雅なフレスコ画。すべて2016年から行われている「美咲芸術世界」から生まれた作品である。
興味深いのは、これらの作品を作ったアーティストのほぼ全員が、パリに所縁がある人々であることだろう。いや、もっと正確にいうならば、パリのど真ん中にある「59リヴォリ」という共同アトリエに所縁がある、というべきかもしれない。
「59リヴォリ」は、90年代の終わりに、一部のアーティストが建物を不法占拠し、誕生した伝説的なアトリエである。
ん? どうして棚田の真ん中でパリ? 不法占拠アトリエってなに? よく意味がわからない?
ええ、その気持ち、わかります。
それでは、ひとつひとつ紐解いていくとしましょう。
訪ねたのは、「美咲芸術世界」の実行委員長で、自身もアーティストである板垣正寿さん(以下、アーティスト名の楽画鬼さん)の家である。
川内 有緒