未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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美咲芸術世界が織りなすヘンテコな世界

〜パリから棚田に舞い降りた常識ハズレの風雲児たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(一部写真提供 美咲芸術世界実行委員会)
未知の細道 No.121 |10 September 2018
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#10夢を抱き、旅に出よう

 さて、こんな国際色溢れるユニークな芸術祭に対して、まちの人の反応は本当に様々だと楽画鬼さんは言う。残念ながら、まだ地元に受け入れられてみんなで一緒に盛り上がっている、というほどではないそうだ。
「アートってすごくわかりにくいよね。だから、『よくわからないけど、一緒にやるよ!』 という協力的な人もいる反面で、『こんなのただの自己満足じゃないか、全然地域のためになってない』という批判もある。でも、俺たちは別に地域のためだけにやっているわけじゃないからそれはしょうがないと思ってる」
 その言葉はすごく正直で、楽画鬼さんらしく素敵だなと思った。
 最近では、地域おこしにアートを役立てようと言う動きが著しい。しかし、アートは何も地域の活性剤になるために存在しているわけではない。アートは、その土地の文化や豊かさを生み出す種のほんのひとつにすぎない。風に乗って旅をし、ある場所に根付き、いずれ花開くかもしれないし、そうではないかもしれない。
「こういうのってすごい時間がかかると思うんだ。でも、きっといつかは俺たちみたいなアーティストの存在に、いずれ街の人たちも慣れるんだと思う。パリも59リヴォリも常に新しい人が入って来て、新しいものが生まれて来た。そうやって変わりながら継続することで、未来が見えてくる。俺はむちゃくちゃって言葉が好きでさあ、むちゃくちゃ加減を大事にしたいんだ。前回は、分かりやすくするためにどうしたらいいんだろうと考えすぎてしまった。もっとむちゃくちゃやらないと。

 そう考える楽画鬼さんは、第二回目の芸術祭の報告書に、こんなロマンチックな言葉を残している。

芸術は心を豊かにする。アートとは本来人間の心に備わっているものなのだ。美しいと思う心。寂しさや悲しさを感じる心。はたしてアマンジャクは星を取れたのだろうか? そう簡単じゃない。だからこそ、私は未来の子供たちに夢を描いて欲しい。素敵な夢を。そして苦悩の夢をも。それが美というものだと私は考えている。僕らは子どものときから、そして年老いてもなお「心の旅人」なのだ。
夢を抱き、旅に出よう。

 パリから棚田の集落にやってきた常識外れの風雲児たちは、これからどんな花を開かせるだろう。それがわかるのは、ずっと先のことかもしれない。

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未知の細道 No.121

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。