未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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美咲芸術世界が織りなすヘンテコな世界

〜パリから棚田に舞い降りた常識ハズレの風雲児たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(一部写真提供 美咲芸術世界実行委員会)
未知の細道 No.121 |10 September 2018
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#2幼稚園が家になる!?

広さ1000平米もある楽画鬼さんのお住まい

 おおっ!本当に家なのか!
 と、ここを訪ねるひとは、まず100%度肝が抜かれること間違いなし。なにしろ、壁からドアまで隙間なく絵が描かれている。そして、なかに入ると奥まで続くながーい廊下が出現。実は、ここはもともと幼稚園だった建物で、広さはなんと 1000平米!
 楽画鬼さんは、家族四人でここに暮らす。
 体操教室が開けるようなだだっ広い部屋がいつくもあり、制作スペースにはことかかない。それなのに家賃は月1万円だというから、東京の人間にはもはや衝撃である。

楽画鬼さんの奥さんで、アーティストのスカット☆リンダさん。

「廃園になった後は何年も使われていなかったんだって。入居した時はけっこう汚かったから、一生懸命に掃除して」
 と思い出すのは楽画鬼さんの奥さんで、アーティストのスカット☆リンダ(以下リンダさん)さん。
「風呂はなかったから、とりあえず庭に五右衛門風呂作って。でも冬になったら五右衛門風呂は寒いじゃんって気がついて、普通の風呂も作って(笑)」(楽画鬼さん)
 いまここで、ふたりは「キッサコ」というカフェやヨガ道場を運営している。ふたりの無数の作品や本やハンモック、そして幼稚園時代から残っているオルガンや椅子が入り混じる曼荼羅のような空間だ。
 しかし、しつこいようだが一歩外に出れば、風景は『日本むかし話』なのである。その激しいミスマッチがさらに興味をかきたてる。
 ふたりがここに移住してきたのは2011年の春のことだったそうだ。
 どこから? パリからである。

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未知の細道 No.121

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。