未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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美咲芸術世界が織りなすヘンテコな世界

〜パリから棚田に舞い降りた常識ハズレの風雲児たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(一部写真提供 美咲芸術世界実行委員会)
未知の細道 No.121 |10 September 2018
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#4“スクワット”=不法占拠!

「59リヴォリ」のなかはガチャガチャとした学園祭のような雰囲気が広がっていた

 さきほど、共同アトリエと書いたが、「59リヴォリ」は、地元パリでは“スクワット”という愛称で知られている。一般的にスクワットとは、アーティストなどにより不法占拠されてしまった建物のことだ。
 「59リヴォリ」も同様で、1999年に3人のアーティストによって不法占拠されたもの。3人は、ある晩に長年使われていない7階建のビルを発見し、「ここを俺たちのアトリエにしちゃおうぜ!」と決めた。深夜に潜入し、勝手に鍵を交換すると、「この建物は“スクワット“された!」という巨大な垂れ幕を下げた。もうパリは大騒ぎである。
 すぐに世界中のアーティストが集結し、アーティストのコミュニティができ上がる。ルール遵守! を美徳とする日本からすると、不法占拠はどう考えても迷惑行為以上だが、そこらへんはさすがアートに寛容なパリである。「まさにピカソの洗濯船の再来!(※洗濯船はピカソが貧乏な頃に仲間たちと一緒に暮らしたアトリエ)」と市民は歓迎モード。パリジャンたちは、歴史の中ですでに姿を消したと思われたピカソやモディリアーニの創作の精神を「59 リヴォリ」に見出したのだ。

 その後、紆余曲折を経て「59リヴォリ」は、懐広いパリ市によって合法化され、共同アトリエとして運営されるようになる。楽画鬼さんが、「59リヴォリ」に出会ったころにはすでに合法化を遂げたあとだったが、3人の破天荒な創始者もまだ残っていたし、そのフリーダムでやんちゃなスピリットは脈々と受け継がれていた。
 楽画鬼さんは、その後2年ほど「59リヴォリ」で活動し、世界のアーティストたちと刺激的で充実した日々をすごした。そして、リンダさんと結婚後は、ふたりでパリ郊外に自身のアトリエを構えた。

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未知の細道 No.121

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。