楽画鬼さんとリンダさんの出会いは、パリの美術学校だった。
ふたりとも幼い頃から絵を描くことが好きで、大学を卒業したあと、お金を貯めてパリにやってきた。
楽画鬼さんは、もともと東京の大学で哲学を専攻していたものの、気がつけばアーティストになりたかったのだと語る。
「学生生活はあんまり面白くもなかったよね。だから、バイトして、時間が空いたらスケッチブックを持って街にでかけて。そのときは、アーティスト仲間というのもいなくって、アーティストっていったいどこにいるんだろうと思っていた」
東京で満たされない思いを抱えていた楽画鬼さん。お金を貯めて向かったのは、芸術の都・パリだった。街を歩いた彼を、何が感動させたかといえば、エッフェル塔でもルーブル美術館でもなく、もうそこら中にゴロゴロしているアーティストたちだった。
「わあ、本当にアーティストっているんだなあって! 道を歩いていると、おかしな建物の前で『アート! アート!』とか叫んでる奴がいて、中に入ったら共同アトリエだったり」
楽画鬼さんは、自分の作品集を持ってギャラリーを巡った。しかし、ギャラリーの人々はちょっと冷たく、作品を見せられないままに後にすることも多かった。
どうやったら自分もアーティストになれるんだろう?
そう考えていたある日、奇妙な共同アトリエに行き着いた。場所はパリのど真ん中で、最寄駅はシャトレー。東京でいえば渋谷駅前のような場所である。
建物の外観は奇抜のひとことで、7、8メートルはあろうかという巨大な仮面の装飾がビル前面にはりついていた。
なかにはいると、壁から天井までグラフィティーや装飾であふれ、ガチャチャチャとした学園祭のような雰囲気。そこで、世界中から集まった約30人のアーティストが、共同生活をしながら作品を制作していた。建物の名前は「59リヴォリ」。単純に「リヴォリ通り」の59番地にあるからだ。
川内 有緒