未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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美咲芸術世界が織りなすヘンテコな世界

〜パリから棚田に舞い降りた常識ハズレの風雲児たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(一部写真提供 美咲芸術世界実行委員会)
未知の細道 No.121 |10 September 2018
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#3パリでアーティストを発見

パリの中心地である1区にある共同アトリエ「59 リヴォリ」。現在はパリ市によって運営されている。

 楽画鬼さんとリンダさんの出会いは、パリの美術学校だった。
 ふたりとも幼い頃から絵を描くことが好きで、大学を卒業したあと、お金を貯めてパリにやってきた。
 楽画鬼さんは、もともと東京の大学で哲学を専攻していたものの、気がつけばアーティストになりたかったのだと語る。
「学生生活はあんまり面白くもなかったよね。だから、バイトして、時間が空いたらスケッチブックを持って街にでかけて。そのときは、アーティスト仲間というのもいなくって、アーティストっていったいどこにいるんだろうと思っていた」
 東京で満たされない思いを抱えていた楽画鬼さん。お金を貯めて向かったのは、芸術の都・パリだった。街を歩いた彼を、何が感動させたかといえば、エッフェル塔でもルーブル美術館でもなく、もうそこら中にゴロゴロしているアーティストたちだった。
「わあ、本当にアーティストっているんだなあって! 道を歩いていると、おかしな建物の前で『アート! アート!』とか叫んでる奴がいて、中に入ったら共同アトリエだったり」
 楽画鬼さんは、自分の作品集を持ってギャラリーを巡った。しかし、ギャラリーの人々はちょっと冷たく、作品を見せられないままに後にすることも多かった。
 どうやったら自分もアーティストになれるんだろう?

 そう考えていたある日、奇妙な共同アトリエに行き着いた。場所はパリのど真ん中で、最寄駅はシャトレー。東京でいえば渋谷駅前のような場所である。
 建物の外観は奇抜のひとことで、7、8メートルはあろうかという巨大な仮面の装飾がビル前面にはりついていた。

 なかにはいると、壁から天井までグラフィティーや装飾であふれ、ガチャチャチャとした学園祭のような雰囲気。そこで、世界中から集まった約30人のアーティストが、共同生活をしながら作品を制作していた。建物の名前は「59リヴォリ」。単純に「リヴォリ通り」の59番地にあるからだ。

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未知の細道 No.121

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。