未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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美咲芸術世界が織りなすヘンテコな世界

〜パリから棚田に舞い降りた常識ハズレの風雲児たち〜

文= 川内有緒
写真= 川内有緒(一部写真提供 美咲芸術世界実行委員会)
未知の細道 No.121 |10 September 2018
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#6あいつらをここに呼びたい

長年パリの「59リヴォリ」で活動するアーティストのスイス・マロカンさん。美咲町の住人にも大人気だ。(右)

 棚田×パリ×アート=???
 その計算式が何を生み出すのかは、彼自身にもよくわからなかった。大きなイベントをプロデュースした経験もなかった。しかし、手探りで企画書を書いてみると、「アートプロジェクトおかやま推進事業」のひとつとして採択された。実行委員長は楽画鬼さん自身である。
 とはいえ、「芸術祭を成功させて町おこし!」というようなギラギラした決意やプレッシャーはなかったそうだ。
「芸術祭を立ち上げるというより、リヴォリのメンバーを呼ぶんだったら俺にもできるなあという感じだった」

 ちょうど、楽画鬼さんの家の目の前には、廃校になった小学校があった。
「そこを美術館のようにしたいという夢が膨んで、行政と交渉してみたら、そこを展示場所として使えることになったんだ」
 こうして資金や舞台が整った。
「おーい、美咲町においでよ!」とパリの仲間に呼びかけると、「59 リヴォリ」の中心メンバーであるブルーノ・デュモン(フランス人)や、初期からのメンバーのスイス・マロカン(ドイツ人)など、数人が喜んでやってきた。また、現在では東京に住む元「59 リヴォリ」のメンバーふたりも合流し、小さな集落は一気に賑やかになった。
 嬉しかったことは、楽画鬼さんと同様に、パリのアーティストたちもまたこの静かな山の集落が大いに気に入ったことだ。
 一ヶ月ほど共同生活を送りながらかなりストイックに制作を続け、学校全体を大きな作品として仕上げた。
 大きな宣伝をしたわけではなかったが、県内外からお客さんが来てくれ、手応えを感じた。

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未知の細道 No.121

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。