未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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小路を歩けばサムライが、堀を覗けばカッパがいる?

~金ヶ崎要害と城内諏訪小路重伝建地区〜

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.91 |25 May 2017
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#8金ケ崎の再発見

この⽇はまちづくり研究会メンバー、菊池悦⼦さんが侍住宅を案内してくれた。

 さて武家屋敷の街並みをぐるっと一周して、また諏訪小路へと戻ってきた。私たちは「旧坂本家侍住宅」で、一休みすることになった。

 天保元年(1830)に建てられた坂本家は、今も江戸の侍の生活の雰囲気をたたえた屋敷だ。現在は一般公開しており、中では喫茶コーナーや和風小物などの雑貨ブースもあって楽しめる。

旧坂本家侍住宅の内部の様子

 江戸時代に金ケ崎の美しさを発見したのは菅江真澄だったが、現代の金ケ崎の街並みの美しさに気づいて、ここが重伝建地区として選定されるようになる最初のきっかけはなんだったのだろうか? ふと気になって千葉さんに尋ねてみた。

 すると千葉さんがこんな話をしてくれた。今から40年ほど前のこと、当時、東北大学で東北地方の伝統的建造物を研究していた佐藤巧教授がある日、「どこかに、まだ知られてないような街並みはないかな?」と千葉さんに聞いてきたのだという。千葉さんは「うちの地元にはまだ古い茅葺きの家がかなり残っていますよ」と言って、さっそく佐藤教授を金ケ崎へと連れて行った。金ケ崎に残っている江戸時代の町並みの、良好な保存状態を見て、斎藤教授は驚いて千葉さんにこう言った。「これは角館(秋田県角館。言わずと知れた、ここも有名な重伝建地区だ!)より凄いかもしれないよ」

 こうして千葉さんや佐藤教授による、金ケ崎の調査や保存の活動が始まり、平成13年6月に、「金ケ崎町城内諏訪小路重要伝統的建造物群保存地区」が正式に選定されたのであった。今から16年前のことであった。

端午の節句に合わせて、こけしや甲冑などのコレクションが展示されていた。
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未知の細道 No.91

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。