さて武家屋敷の街並みをぐるっと一周して、また諏訪小路へと戻ってきた。私たちは「旧坂本家侍住宅」で、一休みすることになった。
天保元年(1830)に建てられた坂本家は、今も江戸の侍の生活の雰囲気をたたえた屋敷だ。現在は一般公開しており、中では喫茶コーナーや和風小物などの雑貨ブースもあって楽しめる。
江戸時代に金ケ崎の美しさを発見したのは菅江真澄だったが、現代の金ケ崎の街並みの美しさに気づいて、ここが重伝建地区として選定されるようになる最初のきっかけはなんだったのだろうか? ふと気になって千葉さんに尋ねてみた。
すると千葉さんがこんな話をしてくれた。今から40年ほど前のこと、当時、東北大学で東北地方の伝統的建造物を研究していた佐藤巧教授がある日、「どこかに、まだ知られてないような街並みはないかな?」と千葉さんに聞いてきたのだという。千葉さんは「うちの地元にはまだ古い茅葺きの家がかなり残っていますよ」と言って、さっそく佐藤教授を金ケ崎へと連れて行った。金ケ崎に残っている江戸時代の町並みの、良好な保存状態を見て、斎藤教授は驚いて千葉さんにこう言った。「これは角館(秋田県角館。言わずと知れた、ここも有名な重伝建地区だ!)より凄いかもしれないよ」
こうして千葉さんや佐藤教授による、金ケ崎の調査や保存の活動が始まり、平成13年6月に、「金ケ崎町城内諏訪小路重要伝統的建造物群保存地区」が正式に選定されたのであった。今から16年前のことであった。
松本美枝子