未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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小路を歩けばサムライが、堀を覗けばカッパがいる?

~金ヶ崎要害と城内諏訪小路重伝建地区〜

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.91 |10 May 2017
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#2妖怪が繋いだ、千葉さんと市川さんの縁

金ヶ崎要害の跡。地形から昔の城の様子を読み取ることができる。

 金ケ崎町城内諏訪小路重伝建地区は、このあたり一帯を治めていた伊達家の家臣・大町氏の居城であった「金ヶ崎要害」という城跡と、その大町氏の家臣団が住んでいた武家町からなる。この金ヶ崎要害は伊達氏が藩の重要拠点に家臣を配置してその土地を治めさせた、いわゆる「仙台藩二十一要害」の一つだ。現在の行政区域ではここは岩手県になるわけだが、江戸時代、ここは仙台藩であり、仙台の文化圏だったのだ。

  • 重伝建地区の住宅には、必ずと言っていいほど屋敷神が祀ってある。
  • 伝統的な板塀と石積み。石積みは切石と河原石を組み合わせてある。

 この要害を中心にして、諏訪小路や表小路、六軒丁などと呼ばれる七つの小路に沿って作られた江戸時代の街並みと住宅、生垣や石積み、土塁などの伝統的建築物や工作物が今でも良好な状態で残っている。地区外も旧奥州街道沿いに、商人の町や足軽の町だったところが、今でもその名残をとどめているのだという。小路を歩きながら、私にそうレクチャーしてくれるのは、千葉さんだ。

 千葉さんはお隣の旧水沢市や地元の金ケ崎町の教育委員会で、文化財の発掘調査や保存を担当してきた。長年、この金ケ崎の重伝建地区選定に尽力してきた人なのだ。リタイアした現在は、金ケ崎まちづくり研究会のメンバーとして、町の文化財や伝承を活用した地域活性化を図る活動をしている。

 その一つとして、まちづくり研究会では毎夏八月に「幽霊・化け物・妖怪画展」という展覧会を行っている。この展示は、金ケ崎に昔から伝わる妖怪や幽霊の姿、そしてそれだけにとどまらず自分たちの現在の暮らしから想像したオリジナルの妖怪を描き出して、公開されている幾つかの武家屋敷などに展示するという回遊型の展覧会だ。千葉さんは東北の民俗文化の研究者として、この辺りに伝わる妖怪たちにも詳しいのだ。

 まだ筑波大学の大学院生だった市川さんは、全国の妖怪の伝承を調べていたある時、偶然にこの展覧会の情報を見つけた。いったいこれはなんだろう? と思って金ケ崎町役場に問い合わせてみると、千葉さんを紹介された、というわけだ。

妖怪が繋いだ二人の縁。
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未知の細道 No.91

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。