金ケ崎町城内諏訪小路重伝建地区は、このあたり一帯を治めていた伊達家の家臣・大町氏の居城であった「金ヶ崎要害」という城跡と、その大町氏の家臣団が住んでいた武家町からなる。この金ヶ崎要害は伊達氏が藩の重要拠点に家臣を配置してその土地を治めさせた、いわゆる「仙台藩二十一要害」の一つだ。現在の行政区域ではここは岩手県になるわけだが、江戸時代、ここは仙台藩であり、仙台の文化圏だったのだ。
この要害を中心にして、諏訪小路や表小路、六軒丁などと呼ばれる七つの小路に沿って作られた江戸時代の街並みと住宅、生垣や石積み、土塁などの伝統的建築物や工作物が今でも良好な状態で残っている。地区外も旧奥州街道沿いに、商人の町や足軽の町だったところが、今でもその名残をとどめているのだという。小路を歩きながら、私にそうレクチャーしてくれるのは、千葉さんだ。
千葉さんはお隣の旧水沢市や地元の金ケ崎町の教育委員会で、文化財の発掘調査や保存を担当してきた。長年、この金ケ崎の重伝建地区選定に尽力してきた人なのだ。リタイアした現在は、金ケ崎まちづくり研究会のメンバーとして、町の文化財や伝承を活用した地域活性化を図る活動をしている。
その一つとして、まちづくり研究会では毎夏八月に「幽霊・化け物・妖怪画展」という展覧会を行っている。この展示は、金ケ崎に昔から伝わる妖怪や幽霊の姿、そしてそれだけにとどまらず自分たちの現在の暮らしから想像したオリジナルの妖怪を描き出して、公開されている幾つかの武家屋敷などに展示するという回遊型の展覧会だ。千葉さんは東北の民俗文化の研究者として、この辺りに伝わる妖怪たちにも詳しいのだ。
まだ筑波大学の大学院生だった市川さんは、全国の妖怪の伝承を調べていたある時、偶然にこの展覧会の情報を見つけた。いったいこれはなんだろう? と思って金ケ崎町役場に問い合わせてみると、千葉さんを紹介された、というわけだ。
松本美枝子