未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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書を捨てないで、まちへ出よう!

小布施の「まちじゅう図書館」をめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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#8北斎の娘

 さて、三番目の図書スポットとして訪ねたのは、二百三十年以上の歴史を持つ味噌の専門店、「穀平味噌」である。迎えてくれたのは、九代目のご主人、小山洋史さんだった。お味噌やお酒、発酵食品が並ぶ店内の奥の方に、その書棚はあった。
 そこには、食品やまちづくりなどの本など多様な本が並んでいる。小さなノートが書棚の脇に置かれていて、本を借りたいひとはそこに名前を書くことになっている。いつ返すかは自由だそうだ。
 書棚の中で特に目立っていたのは、葛飾北斎に関連する書籍だった。立派な全集や研究書をはじめとし、カナダの作家、キャサリン・ゴヴィエが書いたノンフィクション、『北斎と応為』や直木賞作家の朝井まかての『眩(くらら)』などが並ぶ。
 小布施は、晩年の北斎が何度も訪れたという所縁の深い地だから、北斎関係の本が充実しているのは驚くことではない。きっと北斎が好きなんだな、と思ったら、話はそんなレベルではなかった。「穀平味噌」は、もうダイレクトに北斎に関係がある場所だということが、小山さんの話で明らかになった。
「最近は北斎の三女の応為栄(以下お栄さん)さんにスポットが当たってるんですよね。北斎の影にいながらも、北斎と同等、またはそれ以上の技量を持っていたと言われていて、北斎の作品とされる中に実は、お栄さんの作品が相当数混じっているのではないかという話があるんです。
「うちはお栄さんと実は非常に深い縁があるんです。うちのご先祖の小山岩治郎は、お栄さんの弟子だったそうです。だから、お栄さんについて調べている研究者や作家はみんなここに寄っていくんですよ。キャサリン・ゴヴィエさんや朝井まかてさんも、みんな話を聞きにきましたね」  おお、そうなんですか! と私は一気にテンションがアップした。

ジャズが流れる「BUD」でくつろぐ穀平味噌の九代目、小山洋史さん
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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。