さて、三番目の図書スポットとして訪ねたのは、二百三十年以上の歴史を持つ味噌の専門店、「穀平味噌」である。迎えてくれたのは、九代目のご主人、小山洋史さんだった。お味噌やお酒、発酵食品が並ぶ店内の奥の方に、その書棚はあった。
そこには、食品やまちづくりなどの本など多様な本が並んでいる。小さなノートが書棚の脇に置かれていて、本を借りたいひとはそこに名前を書くことになっている。いつ返すかは自由だそうだ。
書棚の中で特に目立っていたのは、葛飾北斎に関連する書籍だった。立派な全集や研究書をはじめとし、カナダの作家、キャサリン・ゴヴィエが書いたノンフィクション、『北斎と応為』や直木賞作家の朝井まかての『眩(くらら)』などが並ぶ。
小布施は、晩年の北斎が何度も訪れたという所縁の深い地だから、北斎関係の本が充実しているのは驚くことではない。きっと北斎が好きなんだな、と思ったら、話はそんなレベルではなかった。「穀平味噌」は、もうダイレクトに北斎に関係がある場所だということが、小山さんの話で明らかになった。
「最近は北斎の三女の応為栄(以下お栄さん)さんにスポットが当たってるんですよね。北斎の影にいながらも、北斎と同等、またはそれ以上の技量を持っていたと言われていて、北斎の作品とされる中に実は、お栄さんの作品が相当数混じっているのではないかという話があるんです。
「うちはお栄さんと実は非常に深い縁があるんです。うちのご先祖の小山岩治郎は、お栄さんの弟子だったそうです。だから、お栄さんについて調べている研究者や作家はみんなここに寄っていくんですよ。キャサリン・ゴヴィエさんや朝井まかてさんも、みんな話を聞きにきましたね」
おお、そうなんですか! と私は一気にテンションがアップした。
川内 有緒