未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
73

書を捨てないで、まちへ出よう!

小布施の「まちじゅう図書館」をめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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#9土蔵の中にお宝が

「うちには、応為栄さんの絵も一枚あるし、応為栄さんの手紙も二通残っています。現在北斎館に預けてありますが」と、小山さんの話は『開運! なんでも鑑定団』のような方向に転がっていった。
「すごいお宝ですね! どんな手紙なんですか?」
「一通は絵の具の溶き方を図解したもので、もう一通は、『小布施栗をありがとう』と書かれた、要するにお礼状でした。一通目は北斎調査の時に発見され、二通目は私が二十才の時に土蔵の中から見つけてきたものです」
 へー! 土蔵の中にそんなお宝が眠っているなんてことが、本当にあるのかと驚いた。小山さんは、さらに話を続けた。
「ところがねえ、両方とも、手紙の宛名の部分が故意に破かれていたんです。誰が、どういう理由で破ったのかはわからない。これはミステリーですよ!」
 そのミステリーの答えは、まだ解明されていないそうだ。
 それにしても、なんだか小さな書棚があるだけで、いや、一冊の本が目の前にあるだけで、どんどんコミュニケーションが広がっていく。私は、「まちじゅう図書館」の仕掛けの面白さにすっかり感心した。

 最後に、「こちらへどうぞ」と小山さんが「穀平味噌」の敷地の奥に、案内してくれた。そこには、蔵を改造した隠れ家のようなお店がひっそりと佇んでいた。ひとつは、フランスアンティークを使った素敵なジュエリーのショップ、「ラ・ビブロトリー」で、もう一つは十八年前から続くジャズ喫茶「BUD (バド)」である。
 「ラ・ビブロトリー」の雰囲気はまるでパリの蚤の市だし、「BUD (バド)」では、ジャズが豪快に鳴り響いている。どちらも、お味噌屋さんから、ヒューっと異空間にワープした気分にさせる。ちなみに「BUD」もまちじゅう図書館のスポットのひとつで、ジャズや音楽関係の書籍が本棚に並んでいた。

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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。