「うちには、応為栄さんの絵も一枚あるし、応為栄さんの手紙も二通残っています。現在北斎館に預けてありますが」と、小山さんの話は『開運! なんでも鑑定団』のような方向に転がっていった。
「すごいお宝ですね! どんな手紙なんですか?」
「一通は絵の具の溶き方を図解したもので、もう一通は、『小布施栗をありがとう』と書かれた、要するにお礼状でした。一通目は北斎調査の時に発見され、二通目は私が二十才の時に土蔵の中から見つけてきたものです」
へー! 土蔵の中にそんなお宝が眠っているなんてことが、本当にあるのかと驚いた。小山さんは、さらに話を続けた。
「ところがねえ、両方とも、手紙の宛名の部分が故意に破かれていたんです。誰が、どういう理由で破ったのかはわからない。これはミステリーですよ!」
そのミステリーの答えは、まだ解明されていないそうだ。
それにしても、なんだか小さな書棚があるだけで、いや、一冊の本が目の前にあるだけで、どんどんコミュニケーションが広がっていく。私は、「まちじゅう図書館」の仕掛けの面白さにすっかり感心した。
最後に、「こちらへどうぞ」と小山さんが「穀平味噌」の敷地の奥に、案内してくれた。そこには、蔵を改造した隠れ家のようなお店がひっそりと佇んでいた。ひとつは、フランスアンティークを使った素敵なジュエリーのショップ、「ラ・ビブロトリー」で、もう一つは十八年前から続くジャズ喫茶「BUD (バド)」である。
「ラ・ビブロトリー」の雰囲気はまるでパリの蚤の市だし、「BUD (バド)」では、ジャズが豪快に鳴り響いている。どちらも、お味噌屋さんから、ヒューっと異空間にワープした気分にさせる。ちなみに「BUD」もまちじゅう図書館のスポットのひとつで、ジャズや音楽関係の書籍が本棚に並んでいた。
川内 有緒