そうして、本をめぐる長い一日は終わった。
そろそろどこかでいっぱい飲みたいなあと思っていると、目の前には「響」という小さなレストランがあった。メニューに「小布施ワイン」とあったので、素早く中に入る。小布施ワインは、この町が生んだ伝説的な自然派ワインで、生産量が少ないのでなかなか東京までは出回ってこない。地元でも、飲めるお店は限られていると観光案内所で聞いていた。
落ち着いた灯りと音楽が心地よい店内が気に入って、さっそく白ワインを頼む。それを待ちながら、今日という日を振り返った。
あの図書館といい、路地といい、サロンといい、ガーデンといい、お味噌屋さんといい、ずいぶんと間口も広くて、奥もぐんと深かった。小布施って、まるで入り口がたくさんある迷路みたいだなあとクラクラする。
すっきりとした味わいのワインのグラスを傾けながら、文庫本を広げた。
——ワインと本という組み合わせも、コーヒーと本に負けず劣らず悪くない。
そのまま、ワインを飲みながら一時間ほど本を読み続けた。
帰り際に店主と話しをしていると、このお店も実は、「まちじゅう図書館」のひとつだとわかった。気さくな店主は、「どうぞ、自由に見てくださいね」と二階席にある小さな本棚を見せてくれた。そう数は多くないが、ここも立派な図書スポットだったのだ。
帰り道、ほろ酔い加減で夜の図書館に向かって歩き始めた。閉館時間は、夜8時なので、まだ間に合うはずだ。
なんとも奥が深い、小布施の街——。
たった一日では、迷宮の断片しか見られなかった。次回は、もっともっと奥までわけいって、迷いに迷ってみたいなあと思う。
図書館に着くと、まだ大勢の人が本を読んでいた。建物の大きな窓からはオレンジの光が漏れ、真っ暗な町をほんのりと照らしていた。やはり、本は私たちの毎日を照らしてくれる。「テラソ」という名前の通りに。
川内 有緒