未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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書を捨てないで、まちへ出よう!

小布施の「まちじゅう図書館」をめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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#10まちを明るく照らす明かり

 そうして、本をめぐる長い一日は終わった。
 そろそろどこかでいっぱい飲みたいなあと思っていると、目の前には「響」という小さなレストランがあった。メニューに「小布施ワイン」とあったので、素早く中に入る。小布施ワインは、この町が生んだ伝説的な自然派ワインで、生産量が少ないのでなかなか東京までは出回ってこない。地元でも、飲めるお店は限られていると観光案内所で聞いていた。
 落ち着いた灯りと音楽が心地よい店内が気に入って、さっそく白ワインを頼む。それを待ちながら、今日という日を振り返った。
 あの図書館といい、路地といい、サロンといい、ガーデンといい、お味噌屋さんといい、ずいぶんと間口も広くて、奥もぐんと深かった。小布施って、まるで入り口がたくさんある迷路みたいだなあとクラクラする。
 すっきりとした味わいのワインのグラスを傾けながら、文庫本を広げた。
 ——ワインと本という組み合わせも、コーヒーと本に負けず劣らず悪くない。
 そのまま、ワインを飲みながら一時間ほど本を読み続けた。
 帰り際に店主と話しをしていると、このお店も実は、「まちじゅう図書館」のひとつだとわかった。気さくな店主は、「どうぞ、自由に見てくださいね」と二階席にある小さな本棚を見せてくれた。そう数は多くないが、ここも立派な図書スポットだったのだ。

   

 帰り道、ほろ酔い加減で夜の図書館に向かって歩き始めた。閉館時間は、夜8時なので、まだ間に合うはずだ。
 なんとも奥が深い、小布施の街——。
 たった一日では、迷宮の断片しか見られなかった。次回は、もっともっと奥までわけいって、迷いに迷ってみたいなあと思う。
 図書館に着くと、まだ大勢の人が本を読んでいた。建物の大きな窓からはオレンジの光が漏れ、真っ暗な町をほんのりと照らしていた。やはり、本は私たちの毎日を照らしてくれる。「テラソ」という名前の通りに。

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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。