「テラソ」に入ってすぐに目についた書棚は、「テラソ百選」という選書コーナーである。賑やかな手書きポップは、図書館ではかなり珍しいのではなかろうか。
こんな書店さながらの試みを始めたのは、図書館ではスペースの関係で多くの本が毎年のように閉架に入ってしまうことだった、と関さんは振り返る。
「もちろん閉架図書も検索して借りることはできるんだけど、本っていうのは姿を見て、ペラペラめくってみて読みたくなるってあるじゃない? 昔の本は、造りとしても非常に凝っているし、すごく面白い本もたくさんある。例えば、沢木耕太郎さんの『深夜特急』! ああいう名作も閉架に入っていて、もったいないと感じて」
思わず、うん、うん、そうですね! 深夜特急は旅行文学の不朽の名作だが、今の若い人にとってはあまり馴染みがないのだそうだ(衝撃!)。
「それで、毎月テーマを変えて本を紹介したらどうかと思いつきました。春は『桜を読む』、梅雨の時は、『雨を読む』なんてね。恋愛小説からミステリーから色々と閉架からも本を持ってきて」
これなら、来館者はいつも新しい本に出会える。図書館としては新しい本を購入するわけではないので、コストもかからない。それになんといっても手書きポップが親しみやすさを演出する、といいことづくめである。
「だんだんスタッフもポップ作りに熱がこもってきてね。最初は文字だけだったんだけど、今はイラストも入ってたりして。もしこれが、印刷された文字だったら人は読まないと思うんですよ。手書きだからやっぱりいいんですよね」と、関さんは自分の子どもを紹介するように嬉しそうに話してくれた。
なんともリラックスした雰囲気のこの図書館ができたのは、今から7年前、2009年のことだ。
ここは、町民同士が、「どんな図書館が欲しいのか」と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をして生まれたそうだ。通常、こういった公共施設の場合、行政側が原案を作って「こんなのどうですか?」と町民に意見を聞くことが多いが、「まちとしょテラソ」の場合は、町民自ら一から意見を出し合った。
そうして、新たな図書館は、単純に本を貸し出すだけではなく、町民の「学びの場」、「交流の場」、「子育ての場」そして「情報発信の場」になることが期待された。
コンセプトが決まると、建物の設計、そして館長も全国に公募をかけた。建物のデザインは公開審査を経て、大きな木を彷彿とさせるような提案が選ばれた。そして館長は、元テレビディレクターの花井裕一郎さんに決定し、開館の準備から運営や企画に関わってもらった。そこには、あえて町の外から新鮮な空気を呼びこんで面白いことしようという気持ちが強く表れていた。
川内 有緒