未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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書を捨てないで、まちへ出よう!

小布施の「まちじゅう図書館」をめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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#4「まちじゅう図書館」

館長の関良幸さん。好きな本は、浅田次郎の『天切り松 闇がたり』シリーズ

 こうして、普通の図書館とは一線を画す未来型の図書館が生まれた。そこでは、ワークショップやイベント、展覧会なども多く開催され、町民のコミュニケーションの場となっている。
 今の館長の関さんは二代目で、初代と同じく公募で選ばれた。ジャンル問わず本を読むものの、「物語が好き、どちらかといえば芥川賞よりも直木賞派」だそうだ。
 三年前、「新たな挑戦をしたい」と、三十年勤めた長野の実用書の出版社を退職して、ここへきた。
「図書館は待っていても人が来て本を借りてくれる時代じゃない。棚の並べ方で図書館も個性が出る」と、編集者としての経験を生かして選書に力を入れた。
 先の「テラソ百選」の他にも、お正月だけの「読本来福」なども始めた。
「二冊の本を書名がわからないように包装紙で包んで、キーワードだけを表に書いておく。例えば『男のロマン』とかね。それで、家に持って帰ってから開けてもらうんだけど、利用者の人からは包装紙を開ける時のドキドキ感がいい、なんて言われました。スタッフで手分けして50セット作ったら好評で、20セット足しました。人によっては、『あれ?』っていう場合もあると思うんだけど、とにかく新しい本との出会いを作りたくてね」
 開館5周年には、「花の創作童話大賞」の公募も行った。全国から7歳から92歳までの作品が1040本、町内からも58本もの創作童話が集まった。
 そういった数々の地道な努力は着実に実を結びつつある。役場庁舎3階にあった旧図書館当時に約2万2千人だった来館者は、昨年は6倍以上の約14万6千人に、貸し出し冊数も3倍近くまで増えた。
 おおっと、今回の本題を忘れてはいけない。
「まちじゅう図書館はどうやって生まれたんですか」と私は聞いた。
「もともとは図書館を設計した古谷(誠章)先生の発案で、『テラソ』を中心に町中に小さな図書館を点在させるというものでした。最初は『テラソ』ですべての本の集中管理を考えていたんですが、予算面から断念してそれぞれのオーナーが所蔵する本を並べるスタイルに変わりました」
 そして、2011年に当時の花井館長が町の商店などに声をかけ、「やりたい」と手を挙げた10箇所で「まちじゅう図書館」が始まったそうだ。そして、今も15軒で続いている、と専用マップをくれた。
 町に散らばる小さな図書館ってどんな感じだろう。
 そこにはどんな本があるだろう——。
 私は、マップをカバンにしまって、さっそく町に出た。

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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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