こうして、普通の図書館とは一線を画す未来型の図書館が生まれた。そこでは、ワークショップやイベント、展覧会なども多く開催され、町民のコミュニケーションの場となっている。
今の館長の関さんは二代目で、初代と同じく公募で選ばれた。ジャンル問わず本を読むものの、「物語が好き、どちらかといえば芥川賞よりも直木賞派」だそうだ。
三年前、「新たな挑戦をしたい」と、三十年勤めた長野の実用書の出版社を退職して、ここへきた。
「図書館は待っていても人が来て本を借りてくれる時代じゃない。棚の並べ方で図書館も個性が出る」と、編集者としての経験を生かして選書に力を入れた。
先の「テラソ百選」の他にも、お正月だけの「読本来福」なども始めた。
「二冊の本を書名がわからないように包装紙で包んで、キーワードだけを表に書いておく。例えば『男のロマン』とかね。それで、家に持って帰ってから開けてもらうんだけど、利用者の人からは包装紙を開ける時のドキドキ感がいい、なんて言われました。スタッフで手分けして50セット作ったら好評で、20セット足しました。人によっては、『あれ?』っていう場合もあると思うんだけど、とにかく新しい本との出会いを作りたくてね」
開館5周年には、「花の創作童話大賞」の公募も行った。全国から7歳から92歳までの作品が1040本、町内からも58本もの創作童話が集まった。
そういった数々の地道な努力は着実に実を結びつつある。役場庁舎3階にあった旧図書館当時に約2万2千人だった来館者は、昨年は6倍以上の約14万6千人に、貸し出し冊数も3倍近くまで増えた。
おおっと、今回の本題を忘れてはいけない。
「まちじゅう図書館はどうやって生まれたんですか」と私は聞いた。
「もともとは図書館を設計した古谷(誠章)先生の発案で、『テラソ』を中心に町中に小さな図書館を点在させるというものでした。最初は『テラソ』ですべての本の集中管理を考えていたんですが、予算面から断念してそれぞれのオーナーが所蔵する本を並べるスタイルに変わりました」
そして、2011年に当時の花井館長が町の商店などに声をかけ、「やりたい」と手を挙げた10箇所で「まちじゅう図書館」が始まったそうだ。そして、今も15軒で続いている、と専用マップをくれた。
町に散らばる小さな図書館ってどんな感じだろう。
そこにはどんな本があるだろう——。
私は、マップをカバンにしまって、さっそく町に出た。
川内 有緒