少し時間があったので、ちょっと街中を散策することにした。
街の中心部には、栗菓子で有名な「小布施堂」や、葛飾北斎の祭屋台天井絵などが展示されている「北斎館」が並んでいる。
その周辺の佇まいは、駅前以上に素晴らしかった。
たいていの観光地の場合、中心部というのは土産物屋やアイスクリーム屋でガチャガチャしているが、ここはゆったりとした空気が流れている。
古い土蔵や昔の家屋を利用した商店、レストランが軒を連ね、銀行の軒さきにも美しいのれんが風に揺れている。そして、ケバケバしい看板や唐突な色の建物がひとつもない。街の商工会議所なども素朴な木造の建物で、実に感じがいい。日本にしては珍しく、街に統一感があるのだ。
そして、街路樹が涼しげな影を作る下では、やはり色とりどりの花が咲く花壇があった。足元を見ると、珍しい木製のブロックが敷かれ、街の統一感に一役買っている。その雰囲気は、やはりアルプスである。
さあて、どこに行こうかと思いながら地図を開いた。観光案内所の人には、「町の中には路地とか庭とか、通りぬけができる道があるんです。車が入ってこられない道だから、とても静かでいいですよ」と言われていた。
通りぬけができる小道って…… 果たしておもしいろかわからないけど、せっかく勧めてもらったし、行ってみるか。
適当に歩いていると、ここかな、という場所が現れた。童話にでも出てくるような緑あふれる細い小道が、奥に、奥にと延びていた。
道の奥にはホテルの小さな庭があり、古風な建物の一部をくぐるように抜けると、その奥には木戸があった。水のせせらぎの音があちこちから聞こえてくる。木戸の側には「私の庭にようこそ(Welcome to My Garden)」という看板がかかっている。
どうやら誰かの家の庭らしい。いいのかなと思いながら中に入ると、素晴らしく手入れが行き届いた日本庭園があった。
ゆっくりと鑑賞しながら通り過ぎる。軒先で洗濯物を干しているところを見ると、今も人が住んでいる普通の家屋だ。庭から庭へと進むうちに、最後に商店の勝手口に出た。
さすがにここは通りぬけられないよね、と引きかえそうとすると、お店の人がやってきて、「どうぞ、どうぞ、ここも通っていいんです」と声をかけられる。そして、お店を通りぬけると、再び見慣れた国道に出た。ほんの3分ほどの不思議な体験。
なんだったんだろう、と狐につままれたような気分になった。
こりゃ、かなり奥が深い街だぞと思いながら、次の図書スポットに急いだ。
川内 有緒