未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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書を捨てないで、まちへ出よう!

小布施の「まちじゅう図書館」をめぐる旅

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.73 |25 August 2016
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#7「栗の小道」を歩く

 再び街を散策していると、「栗の小道」という名がついた裏路地に差し掛かった。
 もともとは畑の畦道だったらしく、どこか素朴さを残した細い道が続いている。両脇には古い土蔵や建物が並び、足元には栗の木のブロックが敷き詰められている。何がある、というわけではないが、濃い緑の影や土蔵の壁が織りなす風景がなんとも美しい。
 暑い日だったが、暑さを感じないままに私は路地をさまよい続けた。
 その間に、いくつもの「私の庭にようこそ」というプレートを見かけた。これは、「オープンガーデン」というまちづくり運動に参加していることを意味し、観光客も自由に庭の中を入っていいそうだ。
 観光案内所でもらった資料を見てみると、今や130軒もの個人や商店がこの「オープンガーデン」に参加していることがわかった。この小さな町で130軒である。どうも小布施という町は、「パブリック」と「プライベート」、「外」と「内」の境界線がとても曖昧なようだ。
 いやあ、これは実に天才的ともいえる街づくりのアイディアに思えた。オープンガーデンのおかげで、私のような観光客にとって街歩きが格段に楽しいものになる。道は何度も複雑に折れ曲がり、その先にどんな風景が広がっているのかわからない。そして誰かのお庭に入っていいなんて、ドキドキする。

 

 ひとつの路地で、小さいけど気持ちの良いコーヒー屋さんを見つけた。焙煎したコーヒーの挽き売りをしているお店で、コーヒーのいい香りであふれている。
 入り口近くの席からは、静かで緑あふれる景色が見えた。文庫本を広げれば、もうかんぺきである。本好きにとって、これ以上の幸福ってないんじゃなかろうか?

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未知の細道 No.73

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。