再び街を散策していると、「栗の小道」という名がついた裏路地に差し掛かった。
もともとは畑の畦道だったらしく、どこか素朴さを残した細い道が続いている。両脇には古い土蔵や建物が並び、足元には栗の木のブロックが敷き詰められている。何がある、というわけではないが、濃い緑の影や土蔵の壁が織りなす風景がなんとも美しい。
暑い日だったが、暑さを感じないままに私は路地をさまよい続けた。
その間に、いくつもの「私の庭にようこそ」というプレートを見かけた。これは、「オープンガーデン」というまちづくり運動に参加していることを意味し、観光客も自由に庭の中を入っていいそうだ。
観光案内所でもらった資料を見てみると、今や130軒もの個人や商店がこの「オープンガーデン」に参加していることがわかった。この小さな町で130軒である。どうも小布施という町は、「パブリック」と「プライベート」、「外」と「内」の境界線がとても曖昧なようだ。
いやあ、これは実に天才的ともいえる街づくりのアイディアに思えた。オープンガーデンのおかげで、私のような観光客にとって街歩きが格段に楽しいものになる。道は何度も複雑に折れ曲がり、その先にどんな風景が広がっているのかわからない。そして誰かのお庭に入っていいなんて、ドキドキする。
ひとつの路地で、小さいけど気持ちの良いコーヒー屋さんを見つけた。焙煎したコーヒーの挽き売りをしているお店で、コーヒーのいい香りであふれている。
入り口近くの席からは、静かで緑あふれる景色が見えた。文庫本を広げれば、もうかんぺきである。本好きにとって、これ以上の幸福ってないんじゃなかろうか?
川内 有緒