未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本列島の歴史は日立の地面から始まった?!

カンブリア紀地層の5億年の旅を解き明かす

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、田切美智雄 (一部提供)
未知の細道 No.61 |20 February 2016
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#9「石があるところ」が道になる

塙さんが見つけたもう一つのポイントが、谷をさらに降りた数沢川の源流にあるというので、移動することにした。
長靴を履いてきてよかった……、と心の中で思いながら、きれいな沢の中に入ると、巨大な岩がいくつもある。水が流れる岩の表面を塙さんが指差すと、白いポツポツした点がいくつも見える。これは海綿の化石だ! 海綿類はカンブリア紀にはすでに誕生し、現代もなお水中に生息するスポンジ状の生き物だが、化石ではその穴の部分が点状になって残り、現代の我々の前にその姿を表す。

「うん、これは確かに5億年前の石です。ここは次の9月の学会で発表しましょう」と田切先生はにっこりしながら塙さんに言って、おもむろにノートを取り出し、熱心に何かを書き付け始めた。新しい論文のためのメモとなるのに違いない!
塙さんもうれしそうだ。よくこんなところを見つけましたね、と私が塙さんに言うと、「カンだよね! 長いこと、この辺を歩いているからね」と言って笑っていた。

沢を確認した後は、最初の登山道まで戻り、さらにその上にある高い地点の地層を確認しに行くことになった。結構急な山道を登っていく。歩きながら田切先生はこのあたりは何度歩いたか分からないくらい、調査してきた、という。たどりついたその場所は、巨石がゴロゴロと山肌からむき出しになり、その上に木が生い茂っていた。

この場所は化石の谷からは少し距離があるのだが、化石の谷のものと同じような岩が出るのだという。おそらく5億年前は同じ場所として繋がっていた岩の連なりが、造山活動の中で何かの作用が加わり、山の上と下へと別れてしまったのだろう、と田切先生は考えている。
こうして書くと簡単だが、それには途方もない、大きな力と長い年月がかかっているのだ。それを思うと、私はついため息がでてしまうのであった。

そんな話を私に説明しながら、田切先生はどんどん藪をくぐっては急斜面にへばりつき、岩をチェックしては、ハンマーで割ってサンプルを取り出していく。
その姿を見て私は思わず「先生、まさに道無き道をゆくですね」と声をかけた。すると田切先生はニッコリ笑ってこちらを見て、こう言ったのだった。
「違いますよ、《石があるところ》に、行くんです」

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未知の細道 No.61

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。