未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本列島の歴史は日立の地面から始まった?!

カンブリア紀地層の5億年の旅を解き明かす

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、田切美智雄 (一部提供)
未知の細道 No.61 |20 February 2016
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#5地面は今も、旅している。

5億年前のカンブリア紀地層の上になりたつ工業都市・日立市

およそ5億年前のこと、この日立の地層は、ゴンドワナ超大陸のなかの、現在の中国大陸となるあたりの火山地帯だった、と田切先生は考えている。日立カンブリア紀層が火山岩からなるのは、そのためである。やがて超大陸は移動と分裂を繰り返し、9000万年前には現在の世界地図に近い状態が作られた。しかし日立カンブリア紀層は中国東北部にあった。
だが、やがて何かのきっかけで、2000万年前ごろから日本海ができ始めた。一つの山地であった現在の中国東北部と日本列島は、日本海の拡大によって徐々に離れていき、1450万年前には、ほぼ現在の位置へと移動した。地面の動きは、まるでドアを押し開けるように、北と南に分かれて動いた。その境となったのが、日立市の西隣の茨城県常陸太田市から福島県棚倉町にかけて、南北約60キロに伸びる棚倉断層だ。
日本列島の構造に重要な役割を持つとされるこの断層を境にして、日本の地質は全く違うのだ、と田切先生は教えてくれた。断層の東側が古く、西側が新しい。つまり日本で一番古い地層がある多賀山地は、中国の縁にあったカンブリア紀の地層が、日本の東側、つまり今の日立がある場所へと押し出されてできあがったものなのだ。

田切先生から、この壮大な地球の歴史を聞いていると、今ニュースでよく流れている、国と国の領土問題、つまりは人間の歴史など、なんだか、どうでもよくなってくる気がする。だって、今だって日本列島はちょっとずつ、動いているのだ。この前の地震みたいに、それがいつもよりうんとたくさん動いてしまうことも、時にはあるけれど! 1億年後の世界地図は、きっと今とは全然違うものになっているはずだ。

田切先生にそう言うと、先生は「そうですねえ、時代は地球規模の歴史として、長く捉えることが必要です。それに古いことを解き明かすことは、未来がどうなるかを知ることにつながりますからね」と笑って返してくれた。

60k㎡におよぶ古い岩の連なり、日立のカンブリア紀地層。この地球の広さに比べたら、それはほんのわずかな面積かもしれない。それでも、よくぞここまで5億年も旅してきたなあ、とかみね公園の露頭を見ながら、つい地層に「おつかれさま」と声をかけたくなるのであった。

地面に大きな力がかかって曲がった地層の褶曲面。
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未知の細道 No.61

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。