未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本列島の歴史は日立の地面から始まった?!

カンブリア紀地層の5億年の旅を解き明かす

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、田切美智雄 (一部提供)
未知の細道 No.61 |20 February 2016
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#8化石の谷で

登山道を進んでいくと、先頭の塙さんが急に道から逸れて、藪を払い、雪の斜面を降って森の奥へと進んでいった。
「ここは林業の人がたまに入るけど、普通の人は入らないし、松本さんがもう一度来ても、きっと入口がどこかわからないよ」と塙さんが言う通り、道らしきものはほとんどない。気をつけないと雪で滑りそうだ。転んでも、とにかくカメラだけは守ろうと思いながら、必死にみんなの後をついていく。谷の中腹あたりまで下ると、一行は止まった。
こここそがおそらく5億年前の生物たちが眠る場所、みんなが「化石の谷」と呼んでいる場所だった。塙さん、及川さんはそれぞれ独自に山に入って化石を探す作業を続けていて、今日は二人が前もって調べておいた場所を、田切先生と一緒に調査するのだ。

真っ二つに割れた大きな石灰岩の表面を、及川さんが指し示した。岩の中にはところどころ、なにやら小さな塊が点々と続いている。
日が届かない化石の谷は、お昼近いというのにとても薄暗い。田切先生は岩にのしかかるようにして、ライトを当てながら石をじっと観察しはじめた。
やがて「うん、これはウミユリの茎の化石かもしれない。きちんと調べてみよう」と言いながら写真を撮り、大きさを測っている。
ウミユリらしき化石の近くにも、もう一つ塊があり、「これは古杯(こはい。カンブリア紀だけに生息していたとされる生物)なんじゃないか? と俺は思うんだよね!」と塙さんが笑っていった。もしこれが古杯類だったら、それはすごい発見になるのだ。

ウミユリと思われる化石

この近くには他にも生痕化石(生物が生きていた証拠となる化石。足跡や這った跡、排泄物の化石など)らしきものも、たくさんあった。岩の中に、たしかに虫が這ったような跡があり、周囲の石の表面とは明らかに違うのが、素人の私でもわかる。そんな岩をたくさん見ていると、昔ここは、本当に海の底だったのか……、と改めて感じ、なんだかワクワクしてくるのであった。

生痕化石と思われる部分

及川さんと塙さんが見つけた化石らしきものを一つ一つ、丁寧に見て、田切先生は、「うん、ここは近いうちに、化石の専門家を連れてきて、きちんと見てもらおう」としきりに頷いていた。二人が見つけた化石のポイントは、これからさらに専門的な調査を受けることになり、まずまずの成果をあげることになりそうだった。

 
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未知の細道 No.61

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。