登山道を進んでいくと、先頭の塙さんが急に道から逸れて、藪を払い、雪の斜面を降って森の奥へと進んでいった。
「ここは林業の人がたまに入るけど、普通の人は入らないし、松本さんがもう一度来ても、きっと入口がどこかわからないよ」と塙さんが言う通り、道らしきものはほとんどない。気をつけないと雪で滑りそうだ。転んでも、とにかくカメラだけは守ろうと思いながら、必死にみんなの後をついていく。谷の中腹あたりまで下ると、一行は止まった。
こここそがおそらく5億年前の生物たちが眠る場所、みんなが「化石の谷」と呼んでいる場所だった。塙さん、及川さんはそれぞれ独自に山に入って化石を探す作業を続けていて、今日は二人が前もって調べておいた場所を、田切先生と一緒に調査するのだ。
真っ二つに割れた大きな石灰岩の表面を、及川さんが指し示した。岩の中にはところどころ、なにやら小さな塊が点々と続いている。
日が届かない化石の谷は、お昼近いというのにとても薄暗い。田切先生は岩にのしかかるようにして、ライトを当てながら石をじっと観察しはじめた。
やがて「うん、これはウミユリの茎の化石かもしれない。きちんと調べてみよう」と言いながら写真を撮り、大きさを測っている。
ウミユリらしき化石の近くにも、もう一つ塊があり、「これは古杯(こはい。カンブリア紀だけに生息していたとされる生物)なんじゃないか? と俺は思うんだよね!」と塙さんが笑っていった。もしこれが古杯類だったら、それはすごい発見になるのだ。
この近くには他にも生痕化石(生物が生きていた証拠となる化石。足跡や這った跡、排泄物の化石など)らしきものも、たくさんあった。岩の中に、たしかに虫が這ったような跡があり、周囲の石の表面とは明らかに違うのが、素人の私でもわかる。そんな岩をたくさん見ていると、昔ここは、本当に海の底だったのか……、と改めて感じ、なんだかワクワクしてくるのであった。
及川さんと塙さんが見つけた化石らしきものを一つ一つ、丁寧に見て、田切先生は、「うん、ここは近いうちに、化石の専門家を連れてきて、きちんと見てもらおう」としきりに頷いていた。二人が見つけた化石のポイントは、これからさらに専門的な調査を受けることになり、まずまずの成果をあげることになりそうだった。
松本美枝子