それではさっそく5億年の石を見に行きましょう、と田切先生は立ち上がった。先生は郷土博物館を出ると、そのすぐ上にある、かみね公園に向かって歩き始めた。徒歩にして1分。
かみね公園は日立の街と海が一望できる高台にある。遊園地と動物園も併設されており、日立市の観光コースでは外せないスポットだ。ちなみに日立市は私の住む水戸市から、常磐道に乗って1時間弱。中でもここの動物園は、私が大好きな場所のひとつである。たまに車を走らせて、ゾウやライオンを見に来るのが、ちょっとした楽しみなのだ。
さて動物園を見下ろすところまで坂をあがると、公園内には幾つもの岩がむき出しになっていることに気づく。「ほら、これはみんな5億年前の石の露頭(野外で地層や岩石が露出している場所のこと)なんですよ」と田切先生は、こともなげに言うではないか。
ええ?! なんと、こんなに簡単に日本最古の地層が見られるとは……。というよりも、以前から目に入っていた公園の岩は実は露頭であって、ディスプレイされたものではなかったわけだ。5億年前の地層は、山奥でしか見られないものと、勝手に思い込んでいた私は、やや、めんくらってしまった。
また公園内には日立鉱山の創業者・久原房之助や日立製作所の創業者・小平浪平などを讃える石碑がいくつかある。これらも5億年前の花崗岩を基礎にしたり、露頭をそのまま使うなどしている。どれも、みな、あの東日本大震災でもビクともしなかった、という。
かみね公園の中には、このように5億年前の花崗岩の露頭がいくつもあり、説明板で案内されている。まずはここに来れば、誰もが気軽に日本最古の地層を観察することができるのだ。
しかし、どうして5億年前の地層が、今の日立にあるのだろうか? そしてなぜ日立にしかないのだろうか?その疑問に、田切先生がこう答えてくれた。
松本美枝子