未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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日本列島の歴史は日立の地面から始まった?!

カンブリア紀地層の5億年の旅を解き明かす

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子、田切美智雄 (一部提供)
未知の細道 No.61 |20 February 2016
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#3カンブリア紀地層の発見

日立市小木津山の入口付近。日本で最初に発見されたカンブリア紀の地層の露頭だ。(撮影:田切美智雄)

さて茨城に戻った田切青年の研究では、28歳の時に書き上げた博士論文のとおり、3億5千万年前の石炭紀の地層が日立市内に広がっているというところまではわかっていた。 しかし、どうやらもっと古いかもしれない地層が存在することも、実は田切先生は分かっていた。しかしその年代を特定することが、なかなかできないでいたのだった。
地層の年代は化石や鉱石で年代を決める。日立からはかなり古い時代のものであろう溶岩の変成岩(既存の岩石が変成作用を受けた岩石のこと。熱や圧力、化学変化などの作用がある)や花崗岩、石灰岩が出るのだが、なかなか化石が出ない。溶岩とはつまりマグマである。火山活動があった場所で生物の手がかりを見つけるのは、かなり難しい。年代を決める方法がなく、肝心のことがわからないまま、あっという間に40年近くの月日が流れていた。

しかし1990年代になって、質量分析機(超微量成分を分析する機械のこと)が世界的な競争によって急速に進歩した。これは石の中にあるジルコンという鉱物を測定することで年代がわかる、いわゆる放射年代測定法を利用している。

そこでおそらく古いには違いないのだが、どうしても年代を特定できなかった日立市小木津の花崗岩を測定したところ、なんとこれが4億9千万年前のカンブリア紀地層であることがわかったのだった。2003年のことであった。
石炭紀から、さらにその前のデボン紀、シルル紀、オルドビス紀という3つの時代をやすやすと飛び越えて、日立にカンブリア紀の地層が見つかったということは、日本列島の歴史のなかで、一気に1億4千万年の歳月が埋まった瞬間だった。

これは田切先生が今まで書いた論文が全部ひっくり返るような大発見であり、先生は嬉しさより、まず驚きが先にきたという。「これは困ったなあ……でも、とにかく全部研究をやり直すしかない! って思いましたけどね」と田切先生は笑って話してくれた。
この発見は2008年に最初に学会で報告された。この後の研究で、さらに古い5億年以上前の地層も発見され、日本最古のカンブリア紀の地層が、日立市の広い範囲に連なっていることが証明されたのであった。

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未知の細道 No.61

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。