茨城県日立市
我々がいま立っている、この日本列島は、いったい、いつ、どのようにして誕生したのだろうか?46億年という長い地球の歴史のなかの、たった5億年前から、この大地は姿を表した。そしてその痕跡が、日本に残っているただ一つの場所がある。それが茨城県日立市周辺だ。日立の5億年前の地層をたどりながら、その秘密に迫る。
最寄りのICから常磐道「日立中央IC」を下車
最寄りのICから常磐道「日立中央IC」を下車
ここに小さな石のかけらがある。太陽にかざして見ると、断面がキラキラしているのがわかる。
「ここにある石はみんな、5億年前の石ですよ」といって、田切先生が神社の中を流れる沢の岩をハンマーでちょっと叩いて、割り出してくれたものだ。
断面のきらきらした粒は、雲母だ。宇宙から写真を撮ると、この雲母のせいで、この土地は光って写るそうだ。
だからこの場所は、今はやりの「パワースポット」として人気があるのだ、と田切先生が笑って教えてくれた。
私たちは今、茨城県日立市にある御岩神社にいる。ここ御岩神社の地面、そして日立市の地面の広い範囲は多賀山地と呼ばれており、5億年前のカンブリア紀の地層から成り立っている。この古い岩の連なりは、およそ60k㎡にも及ぶ。
そして5億年前の地層は、日本ではこの日立市周辺にかけてしか、未だ発見されていない。茨城県を除くと4億年前のオルドビス紀までの地層しか日本にはない。つまりここ日立市周辺が、いま分かっている限りでは、日本最古の地層がある場所なのだ。
カンブリア紀といえば、いわゆる古生代、今から約5億4千万年前までさかのぼる。人類はもちろんのこと、恐竜が闊歩する中生代より、ずっと前の時代であり、そのころの地球の全容は未だ謎に満ちている。そしてこの岩の連なりは、かつて存在したゴンドワナ超大陸(過去に存在したと考えられている超大陸。現存するいくつかの大陸や島が含まれる)の東の端に位置し、長い時間をかけて日本の、現在の日立へとたどり着いたと考えられている。
そのはるか5億年前にできた地面が、神社の中に、または山の上に、あるいは町の公園の中にと、日立市の各所で見ることができるのだ。
5億年も旅をしてきただけあって、これらの石にはいくつか特徴がある。その一つが表面にシワのようなものがあること。これは5億年の間に、石が何度も変形を受けてきた証拠だ。
石にシワができるほどの、その長い長い旅は、いったいどんなものだったのだろうか?それが知りたくて、私はこの日本最古のカンブリア紀地層の発見者であり、地質学者の田切美智雄先生のところへと、話を聞きに日立市へと来たのであった。
松本美枝子