未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
53

自分のお店を持ちたいあなたに。 個性100%の“小”店街をめぐる旅

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.53 |20 October 2015
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#4一緒にごはんを食べると、また泊まりたくなる

「山小屋が好きなんです」

「小とりの宿」の宿主である森舞子さんは、自身もいちばん好きな山だという北アルプスで小屋番を勤めていた過去がある。

「知らない人同士が集まって、職業とか年齢とか関係なく、みんなで山の話をする。そんな時間がほんとうに気持ちよくって。それに登山者同士ってよく再会するんですよね。“去年あそこの山に登ってましたよね?”“あ! 会った! 会った!”って。そうしてどんどん仲間が増えていく。そんな場所が私にも作れたらいいなって思ったんです」

宿のテーマは“町の山小屋”。
山小屋のように、みんなでごはんを食べる、食べながら山の話をする。そんな山登りの拠点となる宿が舞子さんの理想だという。

「朝ごはんで力をつけて、“行ってきます!”って言ってもらいたい。お腹を空かせて帰ってきたお客さんのガッツリ食べている姿が見たい。だからこそ、料理はすごく大切にしています。できるだけ長野の食材を使って、山菜も自分で採りに行きます。味噌などの自分で作れる物は手作りして、少しでも新鮮でおいしいごはんを食べてほしいと思っています」

舞子さんの料理を目的に宿に来る人も多く、近頃ではランチ営業をすることもあるという。


オープンしたばかりで広告もほとんどしない小とりの宿。なのに、お客さんが自然に集まってくるのはどうしてなのでしょうか。

「ここにいて“山が好き”と言い続けていると、不思議と山好きの人が来てくれるんですよ。今は1日1組でいいんです」

のんびりとそう話しながらも、

「そのほうがお互いの記憶に残ると思うから」

と言葉が続く舞子さん。そこには、芯のある機転がしなやかにあって、誰もが思わず話を聞いてもらいたくなるような居心地のよさがあるんです。この日もお話を聞かせてもらうつもりが、僕のほうが相談に乗ってもらっていたぐらいです。

「次はこの日に泊まっていいですか? って、帰るときに次の予約をしてくれたり、◯◯さんに紹介してもらったんですけど! って連絡が来ることが増えてきて。そういうときは信頼してもらえたのかなって嬉しくなります。お客さんにもずいぶん助けられてます。料理中に雨が降ってきて扉を閉めてもらったり、近くの直売所に行くお客さんについでに食材を買ってきてもらったり。みんなを巻き込んで、みんなで居場所を作るところが、やっぱり山小屋感覚なんですかね(笑)」


山登りが好きな人はもちろん、これから山登りをはじめたい僕も。ひとたび小とりの宿に泊まれば、次の季節もまた“宿り木”となることでしょう。


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未知の細道 No.53

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。